クリエイティブな世界の天才1000人に共通している考え方とは?

今や“クリエイティビティ(創造性)”という言葉はアートのみならず、ファッション、ビジネスそしてスポーツにいたるまであらゆる分野で頻繁に目にするキーワードとなっている。では果たして“クリエイティビティ”とは一体何を意味して、どこからやって来るものなのだろうか?

そんな根本的な疑問に焦点を合わせたドキュメンタリー映画『天才たちの頭の中 ~世界を面白くする107のヒント~』(原題:Why are we creative?)が、2019年10月12日(土)より新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開される。

この人間の本質に迫るような難題に立ち向かったのは「BMW」「フォルクスワーゲン」といった一流企業のコマーシャル製作に携わり、ドキュメンタリー作家としても活躍するドイツ出身のハーマン・ヴァスケ監督。
答えを知るためにヴァスケ監督がとった行動はあまりにシンプル。「Why are you creative?(あなたはなぜクリエイティブなのですか?)」と、世界で活躍する“クリエイティビティ”あふれる人物に直接聞きに行ったのだ。30年以上の時間をかけて、アポなし、ぶら下がり当たり前の取材でインタビューしたのはなんと1000人以上に及ぶ。

今作では107人の天才たちへのインタビューを厳選して“クリエイティビティ”の本質に迫っている。彼らが自問自答しながら答えた言葉は千差万別ながら大いなる疑問のアウトラインを描き出していると言えるだろう。今回、日本での公開を記念して今なおカメラとスケッチブック片手に精力的に活動を続けるヴァスケ監督に話を聞いた。

―インタビューのために世界各地を旅して、何度も来日しているとのことですが、日本の印象はいかがでしょう?

とてもクリエイティブな国だと思う。初めて来たときからもの凄く身近な国だと思って、愛着も沸いたんだ。
もともと“禅”にすごく興味があって。若いころから特に仏教学者、鈴木大拙の著書を読んで“禅”について勉強していたので、実際に日本に来た時は京都の禅寺へ行ってお坊さんにいろいろ自分なりの質問を投げかけたんだ。例えば「どういう石鹸を使ってて、なぜその石鹸なのか?」とかね(笑)。
座禅にも興味があったから、実際に禅寺でお坊さんと座禅を組んで、クリエイティビティだとか、アートの話をしてみてすごい有意義だったよ。そういう意味でも自分にとっては特別な国だね。

“禅”や仏教以外にも、クロサワ映画や最近だと『万引き家族』の是枝裕和監督、文学もそうだし、アートでも素晴らしい作品が生まれていて、興味深いね。ファッションだったら、今日も着てるけど山本耀司の服が大好きだし、食べ物も盛り付け方に細かく手が込んでいてアートを感じる。すべてにこだわり抜いた匠の技を感じるね。

―監督ご自身はこの作品を作るにあたって何かこだわりはあったのでしょうか?

向こう側に辿りつくまでの長い道のりをどうやって進もうかと(笑)。30年以上かけた膨大な素材があって、まるで怪物を飼いならすような作業だったんだ。30年の間にテクノロジーもずいぶん進化してくるわけで、映像フォーマットもたくさんあってバラバラなわけ。だからデジタル化する作業はものすごく大変だったね。
ただ、アメリカで映画の勉強をしたときに真っ先に教えられたのが「映画作りというのは、人と一緒に作る共同作業なんだ」ということ。今回は手伝ってくれる人もたくさんいて。アニメーションを描いてくれたヴァレリー・ピルソン、音楽はテオ・テアルドとブリクサ・バーゲルトが一緒にやってくれて、編集はマリー・シャルロット・モローが助けてくれた。やはり、自分ではない客観的な眼をもって手伝ってくれる人がいた存在は大きかったね。

マイケル・ダグラスに「あなたはなぜクリエイティブなのですか?」って聞いたときに、彼は「自分にとっては、いろんな要素が最後に一緒になることだ」って答えたんだ。確かにそれってすごくいい瞬間だと思うし、これまでバラバラだった要素が一緒になって最後に一つの作品になるって、それだけでも作り甲斐がある瞬間だね。

最終的に今回の映画が一つの作品になった瞬間は、マリーナ・アブラモヴィッチとプッシー・ライオットのメンバーも駆けつけてくれたヴェネツィア国際映画祭だったね。映画祭の人が「これは単なる映画ではありません」と紹介してくれたけど、実際その通りで、本も出版して、偉人たちが書いてくれたメッセージを500点以上並べた展示会もやったからね。

アルバトロス・フィルムa/YouTube

―今回、一つの作品になったわけですが、実際30年以上も続けられた監督のモチベーションはどこから来るのでしょう?

ゴールがあるからですよ。自分が目指しているものがある。ローマの哲学者のルキウス・アンナエウス・セネカも「行きつく港がない船には風が吹かない(If one does not know to which port one is sailing, no wind is favorable.)」と言っているし、サッカーでもゴールがなければ得点は入らないからね。僕には港もあるし、目指している明確なゴールもあったということだね。

―“クリエイティビティ”の本質に迫るのはかなり困難だと思うのですが、その明確なゴールは言葉にできるものなんでしょうか?

実は続編も作っていて、今回の『Why are we creative?(原題)』の続編として『Why are we not creative?』と題して、今度は創造性を妨げるものに焦点をあてた作品を作っているんだ。
今回の作品は創造性を支えるものについてみんな語っている。例えば幼い頃から持って生まれたものであったり、自分が育てられた環境なのか、精神性なのか、そういったところから創造性がやってくると語っている。それに対して次回作は創造性を殺してしまうもの、妨げるものというのを取り上げていて、真逆の観点から見ている。テーマがあって、それを両側から対比した角度で観ていくということだね。
それで、実は映画は三部作になっていてその先にもう一本考えているんだけど、その話は今ここではできないな(笑)。

―なるほど(笑)。1000人以上を超えるインタビューを通じて監督自身が得たものとは何でしょうか?

これだけのクリエイティブな世界の偉人たちから、直接素晴らしい言葉をもらえる“特別な授業”を受けられたのは非常に恵まれていると思う。自分は永遠に、このクリエイティビティに関する大学に通い続ける生徒のような存在だね。

クリエイティブな人の数だけ、いろいろな答えがあるのは確かなんだけれど、その中でも共通しているものがあって。それは、自分は自分であり、他と違うことを決して恐れることはなく驚きの要素を生み出しているということ。
人から認められるとか、承認は必要としていなくて、自分がとにかく表現することが重要だということ。プッシー・ライオットもワールドカップ決勝のピッチになだれ込んだ時に、周りから許可を得ているわけではないんだ。

あとは、恐れないということ。表現することを恐れてしまうと自主規制につながってしまって、それが一番よくない。そうなると最終的に「あの時、自分にもできたはずなのに」といった気持ちになってしまう。有名なエピソードで現代美術家のダミアン・ハーストがジャーナリストに「あなたの作品って、私でも作れますね」って言われたんだけど、「でも、実際に君は作ってないよね。作ったのは僕だよ」と切り返したんだ。結局、アイデアはあってもそれを形にしなければ何の意味もないんだ。

人からどう思われるか、メディアからどう思われるかが怖くて、なかなかそれを行動にできないけれど、いろいろ話を聞いていて、行動に移すことが大事だということと、みんながあっと驚く要素が非常に大事だってことだね。

―ちなみに30年間で失ってしまったものは?

昨日、香港で<YOHJI YAMAMOTO>のY-3のベースボールキャップを失くしてしまったばかりだよ(笑)

―この先、監督がインタビューしたい人は誰でしょうか?

レディ・ガガとは一度ラスベガスで会ったことがあるんだけど、本当に短い間だけだったんだ。彼女は凄いクリエイティブな人なので、じっくり創造性について話してみたいね。

―ちなみに日本人では誰かいますか?

是枝監督だね。

―最後に映画を観る人にメッセージをお願いします。

映画には創造性で悩んでいる人たちにとって、ヒントになるようなものがたくさんあります。実際、煮詰まって方向が見えなかった人が試写会で映画を観て、どっちの方向に向かえばいいのか分かったと声をかけてくれました。是非、そういう意味で自分なりのヒントを見つけてください。

『天才たちの頭の中 ~世界を面白くする107のヒント~』は、2019年10月12日(土)より、新宿武蔵野館ほかにて全国順次公開

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