刺青店が軒を連ね、ならず者が集う… 「紋身街」に住む人々

台湾出身の作家・東山彰良による最新作『小さな場所』(文藝春秋)。小汚く猥雑で、屋台やタトゥーショップが軒を連ねる台北の“紋身街”で暮らす子ども・小武(シャオウ)の目線で、今を生きる台湾の大人の姿を切り取ったエピソードが描かれた連作小説だ。

舞台は“紋身街=Tatoo Street”の名前から想像できるように、決して治安も良くはない小さな通り。昔から地域に根付いていた人々と、流れ込んできた日陰者の生活が入り混じる、陰と陽のパワーが蠢く小さな場所である。

ならず者が流れてくる街ということもあり、ここで暮らすのはお世辞にも品が良いとは言えない大人ばかり。基本的に口が悪く、買い物をしても代金を踏み倒したり、子ども相手にムキになって暴力を振るったり……。そんな紋身街で食堂を営む一家の子ども小武と、街で暮らすさまざまな大人たちの交流が描かれたこの作品から、表題にもなった「小さな場所」の章からエピソードを紹介しよう。

出身を馬鹿にされたことから、学校で友人とケンカになった小武。“井の中の蛙”呼ばわりされて憤る彼の様子を見た、近所でタトゥースタジオを構えるニン姉さんは、荘子の<井蛙不可以語於海者、拘於虚也。夏蟲不可以語於氷者、篤於時也。(井の中の蛙には大海は語れない。夏の虫には氷は語れない)>という言葉を説き、「ねえ、小武、知ってる? 井の中の蛙の諺にはね、つづきがあるのよ」と語りかける。

「井の中の蛙大海を知らず、されど空の深さを知る」と続け、「井蛙はたしかにちっぽけな世界しか見えていないかもしれない。でもね、大きな世界に棲むものには見えないなにかが見えているかもしれない」と励ますのだ。

ここだけで済めばよくある“いい話”で終わるのだが、ここは紋身街。話を聞いていた周囲の大人たちから「ちっぽけな世界でも悪くない、なんて価値観を子どもに植えつけるな」「(小武も)こんなところで終わっちまうような生き方だけはすんな」と、どやされてしまう。

“住めば都”“我が家に勝る所なし”という諺もあるように、たしかに自分が生まれ育ってきた土地をひいき目で見てしまう部分もあるだろう。昔なら生まれ落ちた場所で天寿を全うする生き方も、それはそれでよかったのかもしれないが、グローバルな視点で見たときに紋身街という街が果たしてどのような価値を持つ場所なのかどうかは、日々を必死で生きている“ならず者”たちのほうが身に染みて理解をしているのだろう。

このやり取りを経て小武がどのような答えを導き出して歩み始めたのかは、ぜひ本書で確かめてほしい。フィクションなのに、まるで今この瞬間も紋身街では登場人物たちが生きているかのように感じられ、妙にリアルで生々しい。厳しく冷たい現実のなかで繰り広げられる、少年と大人たちの“温かな交流”に、何かこの現代社会を生きるヒントが隠されているかもしれない。冬の読書におすすめの一冊だ。

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