ボクシング界に颯爽と現れ、格闘技ファン、スポーツファンだけにとどまらない、国民的知名度を誇る圧倒的存在となった井上尚弥。“モンスター”“日本ボクシング史上最高傑作”とも呼ばれるこの若者は、間違いなくボクシングの歴史を更新することになるというより、今まさに現在進行形で更新し続けている。そんな井上が常人とは懸け離れた、計り知れないマインドを限りなく細かくリアルに綴ったのが本著『勝ちスイッチ』(井上尚弥 著/秀和システム 刊)だ。

YouTubeに上がっている彼のKO集を見てみると良い。思わず巻き戻して確認しないでいられないくらい、強く速く鮮烈で圧倒的なKOシーンばかりだ。数十秒前まで闘気を放ちまくっていた対戦相手は、いつの間にかマットに沈められ、気づけば立てなくなっている。全員の表情が「どういうことなんだ!?」と面食らっているようにすら見える。そして、ラウンド数を見てさらに驚くことになるだろう。試合時間2分足らずで決めてしまうことも多々あるのだ。
スポーツの中でも格闘は、相手に勝ること、結果的に自分の方が相手より強いことを証明するという目的の明白な競技だ。そのため、相手を圧倒したい欲望や、力を誇示したい欲、承認欲求、名声への欲などがついてまわるはずである。そして相手を圧倒するためには、怒りや暴力衝動、破壊への欲望、ときには恨みや憎しみが最高のガソリンになりえる。マイク・タイソンなどは、ある時期そうだったのではないだろうか。
しかし井上は、そもそも“嫌いな人がいない”と言うのだ。マウンティングの取り合いと、誹謗中傷、“いいね”の数と、ネット上でどう映えるかに、今あらゆる人々が囚われている。時代の必然と言ってしまえばそうかもしれない。だが、どんな時代だろうが“自分に一点の曇りもなく満足していれば”人と比べたり、人を妬んだり憎んだり、他人の目を気にすることなどないのだ。自分のやるべきことに打ち込み、自分を最高の状態にすれば、相手への負の感情や、他者からの評価などさほど意味がない、と井上尚弥はすでに分かっている。
井上ほど未来を期待され、未知数の可能性を感じさせるボクサーもいなかっただろう。ここまで圧倒的に強く、悟りの境地に達していれば、素人には先の予測が一切つかない。これからどこまでのタイトルを手にすることになるのだろうか。何歳まで現役を続けるのだろうか。ボクサーによってキャリアは様々で、引退してからもカムバックし、栄冠を手にする者もいる。だがこの規格外の選手は、ボクサーとしてどう完成するつもりなのだろうか?
本著の前半で井上は、戦いへ挑む姿勢や、生い立ち、日々のルーティーン、家族との何気ない日々など、冷静な自己分析を通してそのリアルな姿を我々に見せてくれる。言葉を紡ぐうちに、井上自身もまた自分を発見したり、認識したりするようでもあり、とても興味深い。その様子も発される言葉も、ひたすら“普通”の人間なのだ。ただ、迷いもまるでなく、今現在に全てを注ごうとする、その純粋さだけを除いて。では、そんな井上尚弥は“今”の積み重ねの先に、どんな未来を思い描いているのだろうか。あるいは、未来など思い描かないのだろうか?
テーマは次第に、家族や、これからのことに移ってゆく。誰にでも時間は有限で、どんなボクサーもいずれは引退することは事実だ。“今”の積み重ねにひたすらフォーカスしている井上も、実は引退に対しかなり具体的な考えを持っていることが分かり、非常に興味深い。そして、そのときまでにたどらなければならない“道”があり、道を進んで行くことができるのは“帰る場所があるからだ”と、妻、そして子供達、家族について語る場面は誰もが共感するのではないだろうか。
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