ボクシング界に颯爽と現れ、格闘技ファン、スポーツファンだけにとどまらない、国民的知名度を誇る圧倒的存在となった井上尚弥。“モンスター”“日本ボクシング史上最高傑作”とも呼ばれるこの若者は、間違いなくボクシングの歴史を更新することになるというより、今まさに現在進行形で更新し続けている。そんな井上が常人とは懸け離れた、計り知れないマインドを限りなく細かくリアルに綴ったのが本著『勝ちスイッチ』(井上尚弥 著/秀和システム 刊)だ。

本人による語りをベースに構成されている本著では、井上が客観的に自己を分析し、これまでを振り返り、これからの展望を明かしている。それはまるで、井上という稀代のボクサーの頭と身体に入り込んで追体験しているかのような感覚だ。
例えば、これまでの試合を思い返す場面が多々あるのだが、「相手からの最初のジャブがそうでもなかったから、そこで今日の調子が図れた」とか「相手の呼吸と自分の呼吸がピタリと合い」「ジャブへの相手の反応で次に自分が入れるパンチの軌道が、一筋の光のように見えたので、それに従って相手の顎にパンチを入れるだけだった」などと井上は説明している。
これはいわゆる“ゾーン”つまりアスリートやパフォーマーが極限まで集中力を研ぎ澄ますと稀に突入する状態だ。脳が高速で情報処理を行い、訓練に耐えた身体が完璧な反応と動作を起こす。パフォーマンスの極致、いわば無双状態。他の人間とは次元の違う時間と空間を生きているようなものなので、それはもう負けるわけがないのである。これを井上も体験したことがあるという。ただでさえ圧倒的強さを誇る王者は無双状態に突入しているわけだ。これを、映画のワンシーンをスローモーションのように1コマずつ描写できるのは、本人による著だからこそ。
ところが、である。井上尚弥というボクサーの本当にすごいところは、この“ゾーン”体験を「再び追い求めようとはしない」と簡単に言い切ってしまうところだ。普通は“ゾーン”に入った状態が自己ベストだと思って、ゾーンへ入ろうとするものである。なにせ無双状態は精神も研ぎ澄まされ、気分も良い。
しかし、よほどの条件が揃わないと発現しない“ゾーン”を追い求めるのではなく、着々と準備を行い、相手を分析し、自らを鍛え、精神を整え、イメージトレーニングを繰り返し、ただただ開始のゴングの時点で最高の状態の自分を作り出すこと、それを毎試合行うことがはるかに重要だと言っている。
こうして井上は本著の中で、ひたすら地道に目標へ向かうための、方法やコツ、日々のちょっとしたことをこと細やかに、そして軽やかに語ってゆく。そこから伺えるのは、当たり前に人間でしかない、あまりに普通の日々だったりもする。常に自分の中での最高を求めている1人のボクサーというだけで、井上も普通の人間なのだ。おそらく、アスリートであれ、芸術家であれ、会社員であれなんであれ、最高を常に求め続けなければ辿り着けない境地がある。
それは誰にとっても等しい事実だろう。そして誰もができることではない。しかしそのことを静かに受け入れ、当然のように遂行してしまうのが井上の本当の凄さなのだ。井上尚弥が“モンスター”と呼ばれる強さの所以、そして常人ならざるところは、一点の迷いもなく最高へと向かう、研ぎ澄まされたその純粋さなのではないだろうか。
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