アーティスト対Spotify 仁義なき戦いの歴史

設立から13年目を迎えた世界No.1音楽ストリーミングサービス「Spotify(スポティファイ)」。激しい競争の中で急成長を続ける音楽ストリーミング業界において、同社が現在の地位を築くまでには数多の苦難が立ちはだかった。中でも、アーティストとの対立は彼らが長きにわたって抱えてきた問題だ。

『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』(著者:スベン・カールソン,ヨーナス・レイヨンフーフブッド、翻訳:池上明子 / ダイヤモンド社)によれば、2009年8月、ボブ・ディランのマネージャーが「ボブ・ディランのSpotifyでのシェア」をソニーデジタル部門の幹部に尋ねた時、彼らは沈黙せざるを得なかった。当時ソニーに支払われていた配当はSpotifyの売上の17%、わずか10万クローナ(約110万円)だったのだ。その数日後、ボブ・ディランは自身の曲をSpotifyから引き上げた。

伝説のシンガー・ソングライターの脱退がニュースとして報道されると、業界やアーティストに大きな波紋を呼んだ。だが、Spotifyとレコード会社との取り決めは極秘事項であり、スポティファイCEOのダニエル・エクは詳細をコメントすることはできない。それからの1年間に多くのスターによる脱退が続いた。

当時のSpotifyからの支払いはまだ少額であり、かつ、ストリーミングの場合はアーティストが支払いを受けるまでには何年も待たねばならない。アーティストたちは、無料会員が大多数を占めるSpotifyが、自分たちを踏み台にして成長しているように感じていたのだ。

2013年にはレディオヘッドのトム・ヨークが「瀕死の人間から出た最後の絶望的な屁のような奴」とSpotifyをこき下ろし、自身の楽曲を一部引き上げた。同時期にコールドプレイやdeadmau5もSpotifyを去っている。

そして2014年、テイラー・スウィフトは最新アルバム『1989』をSpotifyに置くことを拒否するだけにとどまらず、それまで配信していた全ての楽曲を引き払った。同社の無料サービスを違法コピーと似たようなものだと考えていた彼女は、「アートに内在する価値を認めるべきだ」と主張し、ビーツ・ミュージックやラプソディのプレミアムパッケージ料金ならば、それに対する正当な対価となるとファンに紹介した。そこからSpotifyでテイラーのアルバムが聴けるようになるまでには3年の日々を費やした。

実際には、ダニエル・エクが2009年から2014年の間に業界へのロイヤルティとして支払った額は20億ドル(約2200億円)にのぼる。ストリーミング経済においては、アーティストの取り分にばかり焦点が当てられがちだが、Spotifyが支払う先は主にレコード会社であり、そのお金がアーティストや作曲者にどう振り分けられるかは同社の管轄外なのである。

2015年、ジェイ・Zはストリーミング会社を買収し、“アーティストの、アーティストによる、アーティストのための”音楽ストリーミング・サイト「Tidal(タイダル)」を引っさげ、市場に殴り込みをかけてきた。そのローンチ記者会見には、ビヨンセ、カニエ・ウェスト、アリシア・キーズ、マドンナほか、共同経営者として16名の超豪華アーティストたちがズラリ肩を並べた。音楽業界では、タイダルがSpotifyに打ち勝つという意見が大勢を占めていた。

だが、2020年6月時点で、Spotifyは2億9900万人(うち有料会員数は1億3800万人)のユーザーを抱えるストリーミングサービス最大手である。サービス別の売上高シェアでも、1位Spotify(30%)、2位にアップル(25%)と続く。

世界のポップスターたちから目の敵にされ続けたSpotifyは、いかにして度々の窮地を乗り越えてきたのか。なぜトップの座を維持できるのか。本書『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』には、アーティスト、業界関係者、ストリーミングビジネス従事者はもちろん、ファンやリスナーも含めた音楽に関わるあらゆる人々にとって必読の一冊だ。

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