本物のB-BOYだからこそ描くことが出来たリアルなHIPHOP漫画『少年イン・ザ・フッド』 【元ネタ集付き】

グラフィティ・ライターであり、ラッパー、映像作家、インスタグラマーとしても活躍してきたSITE(サイト)a.k.a GHETTO HOLLYWOOD(ゲットーハリウッド)によるヒップホップ・コミック『少年イン・ザ・フッド』が注目を集めている。2019年より連載中の同作は、先ごろ第1巻が発売されるや即完売。現在も店頭では品薄状態が続いているという。

作者は90年代後半から日本のヒップホップ・シーンで活躍してきた「HIPHOPなんでも屋」

その内容に触れる前に、作者であるSITEの経歴に触れておこう。『少年イン・ザ・フッド』のストーリーは彼の人生を濃厚に反映しているからだ。

この20年、SITEは日本のヒップホップ・シーンにおいて、常に存在感を発揮してきた。90年代後半からグラフィティライターとして活動するかたわら、豊富なサブカルチャー知識を背景に「東京ブロンクス」名義で文筆の世界でも「ライター」業を開始。

「GHETTO HOLLYWOOD」名義で、NORIKIYOやSD JUNKSTAのみならず、BAD HOP、PUNPEE、SCARS、AKLO、SALUを始めとする著名ヒップホップ・アーティストのMVを監督してきたことにも触れない訳にはいかない。ハッキリ言って「引く手あまたの売れっ子監督」というべき存在である。多少なりとも日本のヒップホップに興味を持つ人ならば、一度は彼が手掛けたMVを目にしたことがあるはずだ。

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とにもかくにもSITEは、ヒップホップの本質は守りつつ、カルチャーへの深すぎる愛を全面に押し出した独自の美学を様々な角度から提示し続けてきた。その20年以上に渡るスタイルウォーズの中で、リスクを背負って積み上げてきたストリートでの経験、そして膨大な時間と金を使って手に入れてきたサブカルチャー知識を総動員して描いた、純度100%のヒップホップコミックが『少年イン・ザ・フッド』なのだ。この作品にフィクションはあれど、フェイクはない。そう断言しておこう。

ドラッグや暴力を描きつつ、実は教育的な側面も

ストーリーは、作者が青春時代を過ごした90年代半ばと現代を行き来しつつ進行してゆく。現代のパートでは、ギャング・グループの見習いメンバーとして鬱々と日々を過ごしていた主人公「ヒロト」、ジャンキー気味の元DJ「ドゥビさん」、街で噂のグラフィティライター「MEOW」の姿が描かれ、90年代パートでは、若き日のドゥビさん、その弟子「師匠」の姿が描かれる。全編に渡ってドラッグやバイオレンスといったクリミナルな描写が多いものの、基本的には登場人物が出会いや体験を通じて成長していく良質なジュブナイル小説(※ティーンエイジャーを対象とする文学。YA、ヤングアダルトとも)に仕上がっているのは、児童文学好きを公言する作者ならではだろう。

『少年イン・ザ・フッド』は、他のSITE作品同様 “濃い”ヒップホップファンからの支持を集めている。ヒップホップ〜ストリート・カルチャーを歪めることなく描いていることだけでなく、作者が愛してやまないヒップホップやサブカルチャーの知識が惜しみなく詰め込まれていることも、大きな人気の要因となっているようだ。本書を手に入れたら、ストーリーを追うだけでなく、各エピソードのタイトル、キャラクターが着ている服、背景に描き込まれたポスター、登場人物の部屋に転がっているレコードやビデオテープ、そして壁の“落書き”に注意を払っていただきたい。分かる人には分かるサンプリングやオマージュを無数に発見するはずだ。

とはいえ『少年イン・ザ・フッド』は、単に古き良き「ゴールデンエラ」(=ヒップホップの黄金期と考えられている90年代)を振り返り、マニアックなカルチャーを紹介するだけの作品では決してない。前述の通り、少年の成長を描いた正統派ジュブナイル文学であり、また移民や難民への差別、若者を苦しめるスクールカースト、先進各国の動きに逆行する大麻の取締り、私刑にも似た逮捕報道の問題点など、現在日本社会が抱えるシリアスな問題を正面から扱う硬派な側面も持ち合わせている。「ヒップホップには興味がない」とスルーせず、是非とも気軽に手にとっていただきたい1冊だ。

『少年イン・ザ・フッド』第1巻 不完全コミック&シネマ&ブックガイド

最後に『少年イン・ザ・フッド』をより深く楽しむための資料として、第1巻に登場するオマージュやサンプリングの「元ネタ」リストを用意した。サブカルチャーの”超”がつくフリークとして知られるSITEらしく、良質な漫画、音楽、映画などが、ここぞとばかりに紹介されていることを実感していただけるはずだ。なお、このリストは、あくまでJASON RODMANが推測を交えて作成した非公式かつ不完全なもの。記すべき要素の3割もカヴァーできていないことを付記しておく。

■コミック
『東京ガールズブラボー』(岡崎京子)、『リバーズ・エッジ』(岡崎京子)、『編集王』(土田世紀)、『TOKYO GRAFFITI』(井上三太)、『AKIRA』(大友克洋)、『スタア学園』(すぎむらしんいち)、『フリッツ・ザ・キャット』(ロバート・クラム)、『BE-BOP-HIGHSCHOOL』(きうちかずひろ)、『ヒップホップ家系図』(エド・ピスコー)

■映画
『ゼイリブ』、『憎しみ』、『ラスベガスをやっつけろ』、『チーチ&チョン スティルスモーキン』、『フライデー』、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』、『ゴーストワールド』、『スカーフェイス』、『ヴァージン・スーサイズ』、『ドラッグストア・カウボーイ』、『CB4』、『アタック・ザ・ブロック』、『酔拳』、『ビューティフル・ルーザーズ』、『ドゥ・ザ・ライト・シング』、『ウォリアーズ』、『仁義なき戦い』、『このサイテーな世界の終わり』、『グーニーズ』、『燃えよデブゴン』、『ダブルドラゴン』、『ガーディアンオブギャラクシー』、『フットルース』、『ボーイズンダフッド』、『ナイト・オン・ザ・プラネット』

■音源
スチャダラパー『クライングドゥービーマン』、EyeHateGod『Southern Discomfort』、Mos Def『The Ecstatic』、銀杏BOYZ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』、MURO『Diggin’Ice』、須永辰緒『Organ b. Suite』、SLEEP 『THE SCIENCES』、SUPER SUCKERS『Smoke of Hell』、V.A『Bumper Hit」、M.I.A『Bad Girls』、Public Enemy『Rebel without a pause』、Black Sheep『Choice Is Yours』、Boogie Down Productions『Ghetto Music-Blueprint Of Hip Hop』、V.A『Bass Patrol』、YOU THE ROCK『THE SOUNDTRACK’96』、Kid Capri『Classic Cuts』、DJ KENSEI『ILL VIBES』、Jakson5『I Want You Back』、GANG STARR『Daily Operation』、PUBLIC ENEMY『It Takes a Nation of Millions』、Black Sheep『A Wolf In Sheep’s Clothing』、Tha Alkaholiks『21&Over』、MICROPHONE PAGER『Don’t Forget to My Men』、Artfacts「Wrong Side Of The Tracks」、Digital Underground『Doowutchyalike』、Cornelius『Fantasma』、スチャダラパー『5th Wheel 2 The Coach』

■書籍
『Wall and Piece』(バンクシー)、『タイタンの妖女』(カート・ヴォネガットJr)、『悪童日記』(アゴタ・クリストフ)、『マンハッタン少年日記』(ジム・キャロル)、『存在の耐えられない軽さ』(ミラン・クンデラ)、『スコセッシオンスコセッシ―私はキャメラの横で死ぬだろう』(マーティン・スコセッシ)、ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』(ウィリアム・バロウズ)、『血みどろ臓物ハイスクール』(キャシー・アッカー)

文・吉田大

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