僕の血は鉄の味がする。 (ランジャタイ伊藤)

M-1決勝に行った。
夢舞台だった。

マネージャーさんから、優勝したら寝られないから、ギリギリまで寝ておいた方がいいよと言われた。
僕はその言葉を真正面から受け取り優勝するつもりでギリギリまで寝た。
入り時間14時のところ、12時35分に起き、シャワーを浴びる。12時55分にお風呂を出て髪を乾かした。服を着て、刃牙の靴下を履く。
お母さんに、行ってくるよ!と言ってお家を出る。電車に乗ってしばらく行ったところで気がついた。

『にゃんこスターのパネルがない』

M-1の後には打ち上げ配信があり、そのMCがかまいたちさんなことを知ったスーパー3助さんから、「これを持っていって、かまいたちちゃんに、『俺たちのことを忘れないでくれ!』と伝えてくれ!」と託された大切なパネルだった。(あと、松本さんに97点をつけてもらったパネルだから縁起がいいらしい。ありがたい。)

これはやばい戻ろうと、M-1行きの電車を降り、おうち行きの電車に乗った。しかし、途中で気付く、これは、どうやら家まで戻ったならばその時は大遅刻になる。
どうするべきか葛藤した挙句、僕はにゃんこスターパネルを諦め、また電車を降り、M-1行きの電車に乗った。ごめんなさい3助さん。さようなら。

そうして10分ほど遅れ、テレビ朝日にたどり着く。すごい数の大人の人が待って下さっていた。
これは大事だと内心かなり焦ったが、平静を装い、「すみません」と謝った。「なかなか大物ですね」と微笑みながら言う、ご年配のスタッフの方はかなりの凄みを携えていた。
「こちらです。」案内されて向かう僕の後ろに、大量のスタッフさんがついてきて下さる。そうやってテレビ朝日の廊下を歩いているとなんだか、白い巨塔の、財前五郎の教授総回診を思い出した。(いや、本当に申し訳ございませんでした。)

リハ途中に合流したが、ファイナリストたちが怒っている。僕は失格だと次々に言っている。
芝さんが言うには、一緒に最後までいるのは構わないけど、もう本番に出ることは決して出来ないらしい。みんなすごく面白くいじって助けてくれて、本当に優しいなあと思った。
でも、みんながあまりにもすごくリアリティを持って言うので、もしかして、ほんとにもう出られないのかなと少し怖くなった。

宮殿みたいなスタジオで、みんなで写真を撮ったりきゃっきゃした後、楽屋に行く。
楽屋のテレビに映る敗者復活戦。ちょうど、その平場で、キュウの清水さんがずっと福山雅治のものまねをしていた。手を顔にかざし、何を振られても、「実に面白い」「あんちゃん」「小雪も入れて」と、繰り返していた。
なぜ福山雅治なのか、なぜ小雪に呼びかけるのか、全く意味が分からなくて、会場にも全然うけてなくて、とても怖かった。

待ち時間が長かったため、国崎君と2人で駐車場の、事務所の車に行った。座席を限界まで倒して、車の天井を見つめながら、清水さんめちゃ面白かったね!いや、あんなにすべったらもう終わりだなど、色んなことを話しながら1時間ほどを過ごした。

本番が近くなり、楽屋に戻る。みんなピリピリしている。
そんな中、これから生放送という状況にもかかわらず、興奮したのか、ともしげさんが鼻血を出して仰向けに寝転んでばたんきゅーしていた。
「この人はなんてすごいんだ」と思った。

そうしてM-1グランプリが始まった。
待機スペースで、引かれる笑神籤を待つ。1番手にモグライダーが引かれて、何故だかモグライダーの次はランジャタイだなと思った。
引かれた笑神籤の裏側を見た時、本当に、ランジャタイの文字が透けて見えた。なので僕は呼ばれたと同時にロケットスタートを切ったが、国崎くんは呼ばれてもその場を動かないというボケをしていた。
みんなに一斉につっこまれていた。歴代チャンピオンが見守る廊下を歩く時も、チャンピオンの前でいちいち足を止めていた。(本当はあの廊下で持ち時間4分を終えるというボケをしたかったらしい)

廊下をゆっくりと歩いてしまったため、小走りでスタジオの裏を急ぐ。
せりあがりの台がみえた。一度立ち止まり、台を見つめる。
そして一歩踏み出す。
そこにずーっと立っていた夢の自分に、現実の自分が重なり、交わりあって一つになった。
台が動き出す。スクリュー式のせりあがりに体を持っていかれそうになる。(一説によると、前回の野田さんの土下座が原因で、せりあがりぼけ対策によりスクリュー式になったらしい(本当かは知りません))せりあがりの一瞬、なんとなくこれまでのことを考えていた。
思えば、何の結果もないまま、すべり続けて、それでも根拠もない自信だけを胸に抱えて、14年、ずーっとやってきたなあ。
これからM-1で漫才をするんだなあ。
せりあがりがおわり、舞台と繋がった。いざ舞台に飛び出そうとするその時、国崎くんが言った。



「行くぜ、相棒。」



「うん。」



背中をポンと押される。国崎くんが光に消えていく。その背中を見ながら、僕も舞台に向かった。





翌日、大阪行きの新幹線のなかで、席が隣だった国崎くんに聞いた。
「SNSで、あの背中ポンの国崎さんがかっこ良すぎると大騒ぎになっているよ。」
彼の顔が怪訝な面持ちに変わる。
「やべー!もてちゃうね!そのままにしとくか、どうしよう、、」
そして彼は僕にとっては衝撃の真実を語り始めた。

我々にはすべりのジンクスがある。
出番前に、背中を叩かれると必ずすべるというものだ。
確かに、僕たちは過去、それで何度ももすべってきた。
それは共通の認識だった。
あの時、彼は直前に、「いってらっしゃい」とマネージャーに背中を叩かれたらしかった。もちろんマネージャーはそんなジンクスなど知る由もなく、純粋にパワーをくれたつもりだったろう。それに焦った国崎は、そのすべりのかたまりをなすりつける相手を探していた。

しかし、他のファイナリストにすべりをなすりつけるわけにはいかず、あろうことか相方である僕の背中にすべりを背負わせたのであった。
『自分さえうければどうでもいい。おれはうける。お前は存分にすべってくれ。』ということなのだろう。
それを聞いて、背中に冷たい汗が流れた。
どういう気持ちでそれを僕に伝えているのだろう。恐ろしすぎる男だった。

果たしてあの日、すべりを一身に背負った僕はすべっていたのかどうか。
すべっていたのかもしれない。
最下位だったし。なんにせよこのままでは終わりたくない。また来年がんばろっと!


いつかこの星の一等賞になりたい!

文・ランジャタイ 伊藤幸司

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