みんな新宿においでよ (ランジャタイ伊藤)

新宿この8年程、何度足を運んだだろうか。

起きたらすぐに電車に乗って新宿に向かうという日々が、永遠の如く感じられた。これに終わりはあるのか、売れたら終わりなのか、売れても続くのか、そして別にそれが嫌なわけではない、しかし抜け出したいという気持ちもある、そして今日も新宿に向かう。

無限にそこにある新宿に、もうどうしようもなく飲み込まれていた。新宿には全く統一性がない。ありとあらゆる娯楽があるし、ありとあらゆる人間が集まる場所があるし、(ヤクザ事務所からアニメイトまで(実際にヤクザ事務所を見たことはないけどきっとある、よね?))ありとあらゆる人の感情が渦巻いている。365日、3650日、36500日、毎日きっとどこかで事件が起こっているであろうと思わせるその空間は、まるで魔窟だ。

新宿ハイジアV-1という地下の劇場で、それは起こった。出番を待つ間、V-1の楽屋を出て、お笑い劇場、釣具屋、飲食店など、様々な施設を繋ぐホールの真ん中で、のほほんとしていた僕の全身を、突如として爆発音が襲った。

バン!!!!

何が起こったか一瞬わからなかった。数瞬の間を置いて、最初に思った事は、

銃声だ、、!

新宿という土地も相まって、僕にはそれが、銃の発砲音だとしか思えなかった。何の誇張もなく、少しだけ地下が揺れていた。『やばい、これはきっと、にっぽんヤクザとちゅうごくマフィアが闘いを始めたんだ。これから、この場所から大抗争がはじまる。』と感じた僕の脳内はFULL回転し、この窮地から助かるためのありとあらゆる計算式を駆けずり回っていたが、現実世界の肉体は一歩も動けていなかった。

新宿の地下が、爆発の後、反動で爆発音が収縮、そして圧縮されたように張り詰めた音のない静寂に包まれたころ、新宿の底から、1人の男が音もなく出てきた。真っ黒なダウンジャケットを目深にかぶり、覚悟を決めたように下を向き地面を見つめながら、まさに今人を撃ってきましたといわんばかりの感情が読み取れない深淵な目で歩みを進めるその姿はまるで鉄砲玉、ヒットマンのように見えた。

そうか、この人が誰かを銃によって殺めたのだ。これからこの人は警察に出頭するのだな。という事は、これで事件は終わりなのか。そうしてその男が、僕の横をすれ違う。その一瞬、フードの中を覗いて、気付いた。

ともしげだ。
(モグライダーともしげさん、呼び捨てすみません。(モグライダーはウルトラツッコミの芝さんとウルトラボケのともしげさんによる漫才師である。きっとそのうち日本の誰もが知る存在になるであろうので、余計な説明は控えますね。))

ともしげさんは、新宿の地上への階段を登り、ゆっくりと新宿の街へと消えて行った。一体どういう事なのだろう。ともしげさんがヒットマン?そんなわけはない。
状況がうまく飲み込めない僕は、楽屋に入り、芸人たちに話を聞いた。

「ともしげが、劇場の壁に突撃していった。」
「ともしげが、思い切り劇場の袖に突進して行って、袖のカーテンを引きちぎり巻き込み、しばらくうずくまった。」
「ともしげが、漫才中、袖に向かって走り始め、その初速のまま壁に猪のように激突していった。」

など様々な証言を得て、やっと僕はあれが銃声ではなく、ともしげさんが漫才中に劇場の壁に猪のように思い切り突撃して新宿の地下を揺らしたのだという事実に辿り着いた。猪突猛進という言葉を、ここまで体現した人が、かつてこの世にいただろうか。

新宿の街に消えていったともしげさんは、引きちぎってしまった袖のカーテンのフックを買いに行ったらしかった。やった漫才は、漫画範馬刃牙の中で出てくるゴキブリダッシュを習得して足が速くなりたい、と言って、(漫画によると、ゴキブリは、初速から最高速が出せるらしく、それは人間サイズにすると新幹線ほどの、270キロの早さに到達するらしい)ゴキブリのように体を液体化し、ダッシュをすると言う漫才らしい。
ともしげさんは、漫才中にまさかの本当にゴキブリダッシュを習得してしまい、あまりの速さに止まらなくなってしまい、きっと270キロのまま突撃していったのだろう。すごい人である。

ある日は暗闇の袖にいる僕に、「よくみたらかわいいね」と言い放ち顔を近づけてきた。すんでのところでかわした僕に、「何で避けるの?」と言ったともしげさんは、理解の範疇を超えていた。

かと思えば、ある日ともしげさんの服に米粒がついていて、僕がそれを指摘すると、何故か仁王像さながらの憤怒の表情を浮かべその米粒をむしり取り、僕に投げつけてきたこともあった。

袖で、出演者のネタを見ながら座り込み、ずるずると音を立て、インスタントカップ蕎麦を啜っていたこともあった。

袖で、まるでそこが家であるかのようにくつろぎ、頭に肘をついて寝転んで、足をゆらゆらと振りながらネタを見て、少しだけ袖から足が出ていたこともあった。

袖で、全くの無表情で芸人たちのネタを見ているかと思ったら、すべった芸人の姿を見て、「くふふふ」と子どものような無邪気で輝いた笑顔で、嬉しそうに邪気にまみれた笑い声をあげるともしげさんも目撃したことがある。

袖で、トム・ブラウンの漫才を聞きながら携帯をむんずと掴み、風俗のサイトを必死の形相で睨みつけ、予約ボタンを押したら予約がいっぱいですと表示され、頭を抱えるともしげさん。と同時に丁度、布川さんの、「だめー!」というツッコミが響き渡る、奇跡的な光景もみたことがある。

モグライダーさんが主催の東部33部隊というライブの企画で、細川たかし選手権というのがあり、(細川たかしゲームで戦い、負けた方のリーダーが細川たかしさんの髪型にするという企画。)負けた方のチームリーダーであったともしげさんは、自らで考えたであろう企画であるにもかかわらず、頭にバリカンをいれられるとき、嫌すぎたのか、鼻から血を流していた。
僕ははっとした。この光景は、漫画『シグルイ』でしかみたことがなかった。主人公藤木源之助は、己を殺して士を貫く行動をする時、鼻血を流す。
その時のともしげさんは、己を殺して芸を貫いたに違いない。
かっこいい。
しかしよく考えるとともしげさんは、普段から基本坊主だったので、ほとんど何も変わらない。理解の範疇を超えている。怖い。

みんなも新宿に、そして劇場にいきましょう。そこには、ともしげがいるよモグライダーさんはきっとすぐにはちゃめちゃに売れちゃうから急いでね!

文・ランジャタイ 伊藤幸司

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