ガラガラヘビは何度でもやってくる (ランジャタイ 伊藤幸司)

僕には、落ち込んだ時に決まってみる、元気をもらえる、底から引き上げてくれる、映画、漫画、音楽、動画がいくつかある。

その中の一つ、

全盛期のとんねるずさんが、
『ガラガラヘビがやってくる』
を音楽番組で歌い踊り転げ回り暴れまくる動画。

全身タイツで所狭しと跳ね回るその姿はまさにテレビが生み出したスーパースターそのものであり、とてもとても画面にはおさまらず、今にもこちら側に飛び出してくるんじゃないかとすら思わせるような凄まじい映像だった。

時代を塗り替えるとはこういうことなんだ。

いつも勇気を振るい立たせてくれる、それはまさに天下人そのものだった。

日々を過ごす中、どうしようもなく落ち込むこともある。ライブの楽屋で1人その動画を見ていた時。

誰かに画面をのぞかれた。

「おう、何見てんだ伊藤。」

モダンタイムスの川崎誠さんだった。

モダンタイムスさんは、一緒にレギュラーライブをやらせていただいたり、トークライブをやらせていただいたり、ツーマンライブを何度もやらせていただいたりと、色んなことを教わって、学ばせてもらって、とにかく公私共にめちゃくちゃお世話になっている、尊敬する大先輩です。

辛いことがあると、このとんねるずの動画をみるんだという旨を伝えると、ぼくの様子を察し、

「何だ落ち込んでんのか、関係ねえ、大丈夫だよ!思いっきりやりゃいいんだよ!」

と言ってくれた。

僕は続けて聞いた。

「、、芸人が夢を見る時代は終わったんですかね、、?」

かわさんの表情が変わる。

『芸人の夢は終わらねえ!』

かわさんはワンピースの黒髭のような言葉を言い放った。

「おれがお前にどでかい夢を見せてやる!」
「いいか、おれらの出番、よく見てろ。とんねるずを、超えてやるよ。」

ライブが進み、一人また一人とネタが終わっていく。
今日の会場は重いようだ。
みんなそこのそこのうけで首を傾げながら帰ってくる。

そんな中、モダンタイムスの出番が来た。

蒲田姉妹というネタをしたモダンタイムスは、それはもう初っ端からうけまくり、歌い踊り跳ねまくり転げ回り、それこそ、全盛期のとんねるずを思わせるかのような大爆発を起こしていた。

何度か見たことがあるネタだったが、その時の蒲田姉妹は度を超えていた。そのパワーに、僕にはまるで劇場が歓喜の悲鳴を上げてるかのように見えた。

カメラが回ってなくたって、境界は越えられる。

もうこの人たちにはここは狭すぎる、テレビよ、早くモダンタイムスを呼んでくれ。
そしてきっと、すぐにテレビもこの人たちには狭くなる。

そのびかびかに光り輝く2人の背中に涙が出そうになった。

もうとんねるずの動画を見なくても、大丈夫だ。

この光景は、きっといつまでも僕の脳に焼き付いて離れないだろう。
これからどれだけ辛いことがあっても、悩んでも落ち込んでも、どうにだってなる気がした。

かわさんが一際高いジャンプをした。

売れてなくたって、どこにいたって、どこまでも高く飛べる。太陽にだって手が届きそうだった。

どん!

と着地したかわさんが、体制を崩す。

何かを袖に蹴り込んできた。

それが僕の足元に転がってきた。

なんだろう。

拾い上げてみた。

それはちっちゃくて硬くて丸い物体だった。

うんこだ。

「ひっ、」

僕は小さく悲鳴をあげた。

ものすごい勢いでかわさんがはけてきた。

暗がりにすれ違ったかわさんのその顔は、形容しがたいほどにとてもとても恐ろしくて、子どもの時、はじめて得体の知れない悪夢を見て飛び起きた時のことを何故か思い出して、僕は怖くて泣いた。

唐突にネタが終わったが、結果的には勢いのピークのまま終わったように見える形となり、客席はまだその余韻冷めやらず喧騒がおさまらない。かわさんがうんこを漏らしたことには気づいていないようだった。

袖で呆然と成り行きを見守っていたランジャタイの2人にとしさんが言う。

「だめだ、あいつ、うんこ漏らした。」

僕はそのうんこを持っていた。

「お前ら、まだ舞台にうんこあるから早く拾え。」

およそまともな人間のするものではない指令を出してきた。

催眠術にかけられたように、僕らは暗転の間に急いで舞台を綺麗にし、なんとかお客さんにばれることなくことなきを得た。

そしてとしさんから、さらに壊れた指令が飛ぶ。

「優勝賞金一万だろ?このままなら多分おれらが優勝する。票が逃げるから、結果が出るまでは、絶対うんこ漏らしたこと言うなよ?」

舞台上、結果を待つ芸人たちの後ろに紛れて、僕は呆然と、あの白昼夢のような時間は何だったのか思い返していた。

ブーメラン星雲のように冷え切った頭でよくよく振り返ってみると、暴れ回っていたかわさんの動きは、あの時かわさんが僕の携帯からのぞいていたとんねるずの動画の、ほぼ完コピだった。

投票結果がMCに手渡される。

優勝は、、、 モダンタイムス!!

見事金を手にしたとしさんは、我が意を得たりとばかりに、壊れた笑みを浮かべる。

そして、実はかわさんがうんこを漏らしていたと、いうトークを披露し、更なる会場の笑いをかっさらっていた。

そして2021年現在、モダンタイムスは、所属事務所であるソニーを辞め、おれは芸人を辞めるぞ!と石仮面をはめるDIOのようなセリフを言い放ち、YouTubeチャンネル、
『かわさんの部屋』
にて、その生活の全てを24時間垂れ流すという生配信を毎日行なっている。

もはや芸人を超越し、吸血鬼になったDIOのように新たな姿で活動している。僕がみた時は、全世界にみられる中で、相方の国崎くんに泣きながら電話し、「くにちゃん、寂しい、お願い来て、こわいこわいこわい、もうやだ、どうしたらいいの、何で来ないの!早く来て!」と、メンヘラの王様のような凄まじい姿を見せていた。
その後、僕のLINEにも鬼のように着信が来たが、そっと無視をした。

見せられたのは、夢じゃなくくそだったし、芸人が夢をみる時代は終わらないと宣言したかわさんは、YouTuberになった。

きっとお二人は、これからもいろいろなものを撒き散らしながら、最高にかっこ悪くてかっこいいどうしようもない生き様、その背中を見せ続けてくれるのだろう。

モダンさんはコントで、「売れない自分達」「売れなかった自分達」を題材にすることがある。

2014年3月、初めて行かせていただいた、単独ライブの最後にみたコント、『散る、桜』は、衝撃的だった。
笑って泣いて、切なくて悔しくて面白くて哀しくて圧倒的で、そしてどうしようもない馬鹿で、感情が揺さぶられすぎてもう頭がどうにかなりそうだった。

もしかしたら、最期の最期まで売れなかったその時に、モダンタイムスのお笑いは完成するのかもしれない。

しかしそれでも僕は、キングオブコントチャンピオンになって売れまくっているモダンタイムスがみたい。

コントの王様になったモダンタイムスをみるその時まで、どれだけかっこ悪くても、くそを撒き散らしながら、生きて生きて生きて生きようと思った。

文・ランジャタイ 伊藤幸司

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