天国の父と友へ 誇り高き両者の戦いに敗者はいない

「拝啓 ジョニー・ケース様。
貴方のおかげで1人の天才柔術家がMMAファイターとして覚醒しました。不用意なタックルに合わせたアッパーが目に入り、痛がりながら倒れ込み、タップした屈辱と洗礼…
あの時、誰もが終わったと思ったんです。MMAは柔術じゃない、甘くないって。もうこの選手はMMAファイターとして終わったって。”打撃が嫌いだ”と言っていたし…

でもね…あれが”始まり”でした。…いや、自らの力で”始まり”にしました。
ホベルト・サトシ・ソウザという太陽の様な極めの怪物が2021年6月13日、極東の島国で正式に産声を上げました。
MMA人類最激戦区ライト級に舞い降りた神々しいネオ柔術家が貴方を破壊した化け物を神速の三角絞めで極めて、”デカセギの日系ブラジル人” からRIZINライト級初代王者になったのです。 敬具」

…ジョニー・ケースには感謝の手紙を書かねば(笑)

2019年に行われたRIZINライト級トーナメント1回戦でボンサイ柔術の最高傑作であり稀代の天才柔術家ホベルト・サトシ・ソウザは一度MMAに殺された。ファイターとして1番屈辱である打撃をもらい、意識がある中で痛みに負け、降参するという失神KO負け以上に散々な負け方をしたのだ。

記憶では小川直也と戦ったマット・ガファリがそうだった。ガファリはレスリング世界王者であり五輪銀メダリストで人類最強の男といわれたカレリンのライバルだった男だ。
そんな偉大なガファリはMMAで小川直也の左ストレートをくらい一発で戦意喪失してしまった。元々、太り過ぎていたので信用は無かったがあの痛がりKOで一気にネタキャラと化したのだ。

ガファリとサトシを比べては勿論いけないのだが、現代MMAファンは打撃耐性が無いグラップラーに非常に厳しく、過去の実績など露知らず、すぐに損切りしてしまう。
「はい、この選手は向いてない。組み技に戻りなさい。」と。痛がりKOとは過酷なプロキャリアを続ける上で最も深刻な負け方なのだ。

立ち技だが怖いもの知らずの化け物だったボブ・サップもミルコの左ストレートで目をやられてから、打撃で嫌倒れする様になりファイターとしてはあそこで終わってしまった。それくらい心が折れる負けをしてから打撃がある格闘技を続けたり、復帰したりする事は大変なのだ。俗に言う”トラウマ”というやつだ。

しかし、太陽の様に陽気でお茶目な悟空の様な性格のホベルト・サトシ・ソウザはそれを克服して乗り越えた。…いや今回の結果は乗り越えたレベルの話じゃなく克服して、そのまま天まで昇ってしまったと表現していいくらいだ。

ジョニー・ケースに植え付けられたトラウマを完全に払拭して、今回のキャリア最強の相手である破壊神ムサエフに臆せず、三角絞めで瞬殺した事により、天才柔術家から天才MMAファイターに見事、転生を果たしたのだ。

ムサエフにあの勝ち方ができるのは世界でもサトシだけではないか?

しかも、サトシがMMAファイターとして順応していると感じたのが積極的に自らタックルを仕掛け、上のポジションを狙っていた事だ。タックルの距離も打撃を嫌って遠かった昔と比べて、打撃を交えて組み付いてからタックルにいったりとMMAのタックルに様変わりしてきた。

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下からの極めが強いボンサイ柔術もそれを過信してはいない。MMAにおいて下になる事は不利と勿論考えていて、サトシはテイクダウンを奪う事は難しいとされたムサエフを開始から執拗にタックルで攻めて、あと一歩の所までテイクダウンしかけた。そこから超人的なあり得ない反則的フィジカルでムサエフが返したのだがその返しにびっくりする事なく、(ならば!)と蛇の様に組み付き、下になって父から受け継いだ伝家の宝刀”三角絞め”を抜いて斬って落としたのだ。
MMAにおいて下になるのは世界じゃ通用しない論争もあるが、それは今後、ボンサイ柔術に注目すれば解っていく事だ。

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サトシは決して下からだけの選手ではないし、体力MAXのムサエフからマウント奪取しても一切逃さずに極める能力はある。MMAファイターとして覚醒したのは打撃への対応力と恐怖の克服、瞬時の判断力とアドリブ力と自信だろう。元々の天才的柔術能力をMMAで発揮できる様になったのだ。

タックルを切られても離れ際で膝を放てるし、想定以上のフィジカルを体感しても一切焦る事はなかった。MMAの基本の動きかもしれないが一流の柔術家は柔術が染み付いているので、それが出来るまで時間がかかる。ホジャー・グレイシーやクロン・グレイシーはサトシより柔術の実績は上だがMMAファイターとしてのポテンシャルはサトシの方が上に感じる。

ポテンシャルだけでは無く、ボンサイ柔術が打撃を磨くベルウッドジムとの素晴らしい相性や日頃の研鑽、セコンドについている日本MMA中量級レジェンドの三崎和雄の存在もでかい。

サトシはマウントを取ってパウンドアウトやチョーク、腕十字のヒクソン式も出来るし、下から極めるノゲイラ式もできる。そしてノゲイラより瞬発力があるので昔の青木真也の様に試合序盤でテロの様に神速で極める事もできるし、ヴェウドゥムの様に技が正確で美しい。

今まで日本人が恋焦がれてきた伝説のMMAグラップラーの良い所を全て持っているネオ柔術家なのだ。

今回、「RIZIN最強のポケモン」ムサエフを三角絞めというマスターボールでゲットしてRIZINライト級の主人公になったサトシだが早くも相手はいるのか?ムサエフとの再戦は勿論、見たいが不利な状況の中、日本に来てくれたムサエフの今回のコンディションを考えると期間は空けた方がいい。

そんでもってある意味、恩人のジョニー・ケースへのリベンジよりはベラトールの強豪かUFC参戦が観たい!世界的ビッグネームとやるサトシも観てみたい!

元UFCライト級王者でベラトール参戦中のベン・ヘンダーソンなんてどう?試合面白いし、世界的知名度もあるし!色んな選手と戦ってるから格闘技マニアが大好きな三段論法し放題だし(笑)

ベラトールが協力してくれればあり得ないカードじゃない!

柔術家のMMAでの活躍は夢もあるし、幻想は無限に広がる。同じくブリジリアン柔術出身のチャールズ・オリベイラがUFCライト級王者になったばかりだし、柔術ベースのMMAファイターが現代MMAの世界で進化を遂げて復興してきてるのは確かだ。

日系ブラジル人として誇りを持つサトシは亡き父でボンサイ柔術創始者アジウソンの想いと教えを守り、日本でボンサイ柔術を広め、苦労を重ねながら確立し、ボンサイ柔術を背負っている。

RIZINライト級タイトルマッチの国歌斉唱でサトシはブラジル国歌でなく「君が代」を選んだ。

ブラジルで生まれ、日本に来て、日本で育ち、日本で強くなった誇りと覚悟を纏ったサトシの戦いや生き方は数多くの日本人の胸を打ち、日本で苦労する日系ブラジル人達を心から勇気づける。ブラジルと日本の架け橋となったカナリア色の大和魂は試合後、家族やチームへの感謝と共に天国で見守っていた父に涙ながらにベルト奪取を報告した。父の1番の得意技は”三角絞め”だった…

そして、敗者である”コーカサスの死神”トフィック・ムサエフ。死神と言われて破壊的強さを誇る彼も”人間”だ。

戦争になってしまった母国の為に兵役に行き、友の死を間近で体感し、ファイターとして大きなブランクと心の傷を乗り越えて復帰して、コロナ禍の世界的混乱の中、RIZINライト級GP覇者として責任を果たすかの様に来日して、母国語を話せる通訳もいない中、14日間隔離され、RIZINライト級初代王者決定戦を東京ドームで戦ったのだ。

これ程、誇り高い戦士はいるのか?

試合時間は短かったが試合を見守ったプロ格闘家達は改めて、テイクダウンされそうになった時のムサエフの驚異的フィジカルを見て驚愕し絶賛していた。あんな事できないと…

この対決を令和の「ノゲイラvsヒョードル」に喩えたが、三角絞めを極められて最強の男が諦めてタップする虚しさはヒョードルvsヴェウドゥムを思い出した…
あり得ない願いだが両方勝って欲しかった… でも誇り高き両者がRIZINライト級の初代王者を争ったのは本当に素晴らしかった。サトシとムサエフのストーリーはこれが始まりだ。

世界に誇るべきコーカサスの戦士トフィック・ムサエフの復活も心より望んでいる。

RIZINライト級初代王者決定戦。この戦いに敗者はいない。
極東の島国が生んだ誇り高きライト級王座決定戦は、スーパースター渦巻くMMA人類最激戦区ライト級にどんな影響をもたらすのか?

今後もこの階級から目が離せない。サトシ、ムサエフ、感動をありがとう!

御後が宜しいようで。

PS
ボンサイ柔術の苦労と歴史や日本での絆を書いたゴング格闘技とLINE NEWSによる特別企画「デカセギからRIZINへ~サトシとクレベル、日系ブラジル人とボンサイ柔術と日本の絆」(取材・文=松山郷)はどこぞの芸人が適当に書いてる記事と違い素晴らしい記事なので是非、読んで欲しい!

文・鬼越トマホーク・坂井良多

sakai
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