もう、朝倉未来を守る必要はない。孤独な戦いも終わった 格闘技を辞めないで欲しい

朝倉未来、クレベル・コイケの三角絞めで壮絶な失神一本負け。

18年振りの総合格闘技東京ドーム凱旋で衝撃のラストに戦慄が走った… 一瞬、20年前のヒクソンvs船木が脳によぎった…
冷静やクレバーが格闘家にとって必ずしも褒め言葉ではない時がある。バカや無謀が褒め言葉になる時がある特殊な職業が格闘家だ。

冷静かつバカという究極の矛盾が実は1番良い気もする。全ては素人目線の妄想に過ぎないが20年以上格闘技を見ているとそう思う時がある。

“一回しか来ないチャンスでどれだけバカになれるか”

創生期から日々、進化して戦術や戦略や技術など競技として何年も掛けて成熟してきた現代MMA。対戦相手の動画もMMAの最新技術も簡単に手に入る超情報化社会にもなり、特化した選手ではなく全てできないと勝てない緻密なスポーツになり、個人競技からジムやコーチ含めたチーム戦とも表現される様になった現代MMAの中で創生期から変わる事がない真理はそこにある。アマチュアスポーツじゃなく観客から金を取るエンターテイメントとしてもチャンスで”バカ”になる事は望まれるし、称賛されるのだ。

…なんて格闘技ファンは楽で無責任な生物だよ…命を懸けてる選手を尻目にこんな屁理屈ばかり偉そうに言うんだから…だから俺はRIZIN LIVEは見ない時も5000円払う様にしてる。せめてもの罪滅ぼしに。

そんなくだらない自己肯定はさておき、敗れた朝倉未来にも勝機は勿論あった!

1R、寝技を凌いでから立ち上がる攻防の中、左ストレート→右フックのカウンターで打たれ強いクレベルを完璧にグラつかせたのだ。

敗れて尚、彼の打撃センスは日本人の中で抜けていると思う。才能の塊だ。しかし、今回は冷静で危機察知能力が高過ぎる故に”バカ”になるべき勝機で一歩引いてしまったと感じた。クレベル・コイケを研究し尽くした故に相手を大きく見過ぎてしまったのかもしれない。格上の選手をKOできるチャンスは2人のレベルが高ければ高いほど3Rで1回しか来ない。
そしてMMAのトップに残る選手はピンチから必ず盛り返してくる。だから自分もやられるリスクを背負いながらラッシュを後先考えず仕掛けた方がいい場面もある。何回も見返しているがあのパンチで打たれ強いクレベル・コイケが相当効いていた様に感じる。

完全にたらればの結果論になってしまうが2R三角絞めが完璧に入った時の神話崩壊の様な喪失感と共に1Rあの場面での”バカ”になったラッシュも見てみたかったとすぐに走馬灯の様に感じた。正直に白状すれば格闘技マニアとして朝倉未来が極められる姿を見たいという怖いもの見たさの欲望もあった。それと表裏一体で何者にも媚びない孤独で独尊で生意気を貫く英雄の勝利も願っていたという不思議な感覚だった。朝倉未来とはそういう不思議な格闘家なのだ。

あの三角絞めの瞬間、朝倉未来の歴史を見守ってきた全ての人間も一緒に落ちたのだ…

最も勝利を望まれながら、最も負けが観たいと思われている、ジェラシーに塗れた稀代の”アウトサイダーセレブ”朝倉未来がKO勝ちか失神負けかとシンプルに宣言した通りの凄絶な試合だった。2人の対極にいる男が格闘技の醍醐味である緊張感と怖さと衝撃と歓喜と喪失感を全て表現してくれた。

実績に勝るクレベル・コイケの寝技をズバ抜けてると皆、評価しつつ試合前の格闘家の勝敗予想で希望にも似た朝倉未来勝利予想が多かったのも単純な好き嫌いではなく彼が今の日本の格闘技界にとっていかに重要な存在でいかにアイコンとしての責任をたった1人で果たしてきたか敵も味方も大いに理解し、幻想とリスペクトを込めて願いの様なものを彼に託しているのだ。

そんな朝倉未来神話を完全に崩壊させ、現実を見せつけた”柔術界の鬼神”クレベル・コイケも底抜けに強く、洗練された柔術は美しかった。

実の兄弟並みの絆で結ばれるソウザ兄弟と共に日系ブラジル人として日本でしてきた苦労が2021年6月13日、全て報われたのだ。
明日さえ見えなかった日々を弛まぬ努力とファミリーの絆を支えに夢を諦めずに栄光を掴み取った…いや、必死にもぎ取ったと言っていい。

2021年6月13日を「ボンサイ柔術の日」にしたのだ。

朝倉未来が完璧に負けた相手がクレベル・コイケでよかった。そう思えるほど素晴らしい選手だ。

サトシがボンサイ柔術の太陽だとしたらクレベルは月だ。どこか影がある。ハングリー故に血の気が多い危ない雰囲気を漂わせつつ、彼も喧嘩屋から柔術で更生した男の1人だ。戦ってる最中は殺し合いの様な極限状態のはずなのに三角絞めを極めた朝倉未来へのとっさの配慮と試合後に敗者に自ら駆け寄って、抱き合って健闘を称え合う姿は決して血の気の多い喧嘩屋ではなく、一流の競技者として素晴らしい人格を持っているんだと誇らしかった。

試合内容も戦前は打vs極と言われていたがお株を奪う様な蹴りの連打を披露してローでペースをつかみ、テイクダウンを奪えないとみるやテイクダウンディフェンスに集中させておいて肘で削るというMMAの小技であり高等テクニックを見せつけ、集中力を削いでから満を持して引き込んで三角絞めで仕留めるという柔術の部分だけではなくMMAファイターとして格の違うところを見せつけた様はさすが欧州最大のMMA団体KSWの元チャンピオンだ。

良いパンチをもらっても「目が死んでなかったから行けなかった」と朝倉未来に言わしめた鋼のメンタルと仕掛け続ける無尽蔵のスタミナも存分に見せつけた本当に恐ろしい選手だ。打撃だけは今、見返しても下手に見えてモッサリしているので威力がある様には見えないんだがディアス兄弟の打撃のもう少しフォームがゆるい版と考える様にしておこう(笑)

裏社会ではクレベルはパチンコ台「CRクレベル・コイケ」と言われ寝技に入りポルトガル語を叫び出したら激アツ演出で大当たり確定らしい(笑)
兎に角、ずっと陽の目が当たらなかったクレベル・コイケの魅力がたった2Rで伝わった素晴らしい試合だった。

しかしながら格闘技ファンとして18年振りの東京ドームは感慨深かったなぁ… PRIDEに夢中だったあの頃にタイムスリップしてノスタルジーに浸れた…

格闘技って心底、興奮するけど観た後、少し悲しいんだよな…

「朝倉未来 vs クレベル・コイケ」はミルコvsノゲイラの殺伐とした息の出来ない緊張感と両者の絶対に負けられない悲愴感を彷彿とさせたよ… 感情揺さぶられたよ… 18年振りの東京ドームに相応しい圧倒的メインカードだった。

そして…引退は選手が決める事だ。外野がとやかく言うべき事じゃない。

ただ今回はとやかく言わせてもらう。

自分の生い立ちや信念やキャラクターゆえに朝倉未来を張り続け、張り通してきた朝倉未来。タップしない事もプロスポーツとしては愚行かもしれないが己の美学を貫き通した朝倉未来。

孤独で孤高な男、朝倉未来。人に頼れない不器用な男。

負けたら引退は皆、言うと思ってた…

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でもね…

朝倉海と堀口恭司が朝倉未来に言った「辞めないで欲しい」

これが全てだよ。

好かれても嫌われても己を貫き続けた孤独な戦いは終わった。ドームで一生分の大恥もかいた。背負った十字架はクレベルが壊した。
今こそ、無になって格闘技ができる時じゃないのか?もちろん、ここで終わりも美しいかもしれない。でももう守る必要がない。”朝倉未来”を守る必要がないんだ。思う存分攻めれるし好きな相手と戦える。

怪我を治しながらゆっくり考えてくれ。貴方の事が好きな人も嫌いな人も皆、貴方を認めてる。RIZIN.28は貴方の大会だ。貴方が成立させた。

戦ったクレベルが拙い日本語だけど真っ直ぐな瞳でインタビューの最後に言った「彼はスピリットある。サムライのスピリット。本物の男だよ」これに尽きる。

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朝倉未来に囚われ、朝倉未来を張り続け、朝倉未来に挑み続け、朝倉未来を楽しみ、朝倉未来に苦しんできた朝倉未来。皆、貴方のやってきた事を認めてる。今こそ弟や宿敵や戦友の言葉や慰めに耳を傾けるべき。

2021年、6月13日東京ドーム。
朝倉未来が1番かっこ悪くて、1番かっこ良かった。

御後が宜しいようで。

PS
堀口恭司のツイートに震えたよ… 弟の朝倉海以外で堂々とああ言える立場にあるのは堀口恭司しかいない。朝倉海と堀口恭司の意見だからこそ、朝倉未来に大いに響く。
戦友なんだよ。友と戦う宿命のスポーツで結ばれた絆にファンはいつだって心撃ち抜かれる。だから俺は格闘技が大好きなんだ。

文・鬼越トマホーク・坂井良多

sakai
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