執念の左フック 地獄から命賭けで脱出した“不撓不屈の男”奇跡の大逆転勝利

無敵の王者ハビブ・ヌルマゴメドフの突然の引退が生んだ”盲点のタイトルマッチ”。
ブラジルのファヴェーラ(スラム街、貧民街)出身の超苦労人チャールズ・オリヴェイラとBellatorからUFCに来襲した最強の外敵でありジ・アメリカンアスリートの系譜を継ぐ米国が誇る鉄人マイケル・チャンドラーで争われたUFC262のメインイベント、UFCライト級王者決定戦。

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UFCの階級の中でも花形で無敵の絶対王者や稀代のカリスマや激闘王などスーパースター達が幾重にも渦巻くUFCライト級の新しい主役を決める運命の一戦は映画の様な感動的なタイトルマッチだった。

二大MMA大国であるアメリカとブラジル。

チャンドラーのスタイルはレスリング+ボクシングの最高峰でありアメリカ式MMAのど真ん中を行く男。

オリヴェイラのスタイルはブラジリアン柔術+ムエタイの最高峰でありブラジル式MMAの真髄を体現する男だ。

そして国やスタイルだけでなく、山崎まさよしではないが両者は”育ってきた環境”がまるで違う。

高校でレスリングとアメリカンフットボールを掛け持ちして2つで優秀な成績を収め、ミズーリ大学ではレスリング部のキャプテンを務めオールアメリカンに選出、さらに学業も優秀だった究極の文武両道男でアメリカ人の誰もが憧れるジャイアンと出木杉を掛け合わせたスーパーマンがマイケル・チャンドラーだ。

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対するチャールズ・オリヴェイラはブラジルの貧民街で育ち、幼い頃から母の手伝いで働いてきたギリギリの生活の中、12歳でブラジリアン柔術を始めて18歳でプロ格闘家としてデビュー、UFCでは名勝負を繰り広げながら勝ったり負けたりを繰り返し、苦節11年かけてようやくタイトルマッチに漕ぎ着けた。Bellatorから移籍してUFC2戦目でタイトルマッチという最速最短のチャンドラーとはまさに対照的な格闘人生だ。
オリヴェイラの育ってきた環境がいかに過酷かは映画「シティ・オブ・ゴッド」を観るとすぐ理解できるだろう。平和な国、日本では考えられないくらい貧しくて危険過ぎるファヴェーラで育った少年は命懸けで格闘技を習得して貧民街から脱出したのだ。

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アメリカとブラジル、エリートと雑草、レスリングと柔術、UFC2戦目とUFC11年…

全てが対極の2人が数奇な運命で巡り合わせて組神ヌルマゴメドフの後継者争いをしたUFCライト級タイトルマッチは果たしてどういう結末を迎えたのか?

結果は…

超苦労人チャールズ・オリヴェイラが大逆転の2RKOで涙の王座戴冠!!!!!
長年、苦労した脇役が遂に大輪の花を咲かせ主役に躍り出た!

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まさに映画のラストの様な奇跡の戴冠劇はオリヴェイラの困難だらけの人生と相まり極上の感動を生んだ最高のタイトルマッチだった。まさにオリヴェイラは不撓不屈の男だ!
そして技術的にもアメリカンMMAとブラジリアンMMAの誇りをかけたスタイル戦争は非常に噛み合い物凄く面白い試合であった!UFCライト級史上屈指の名勝負だった!

1R開始直後から鋼鉄のフィジカルを持つ全身バネのムチムチ男であるチャンドラーはゴリゴリの圧力で距離を詰め、対するオリヴェイラも一切逃げずに危険過ぎる至近距離でチャンドラーと対峙して日本刀の様な鋭いカーフキックを浴びせる。完全にボクシングvsムエタイだ。

至近距離の打ち合いの中、フィジカルで勝るチャンドラーのフックが入るとオリヴェイラはグラつくがお構いなしにタックルにいき、チャンドラーはそのタックルにギロチンチョークで応戦、寝技が得意なオリヴェイラにまさかの掟破りの逆ギロチンで一本勝ちか?と思わせたがオリヴェイラはこれを凌ぎ、倍返しとばかりにバックを奪い完全に四の字ロックで固めてチョークを狙う。極め神オリヴェイラの得意の形でありチョークで一本勝ちかと思わせたがチャンドラーは鋼鉄のフィジカルを駆使してなんとか立ち上がりそのまま後方にスラムを浴びせ、その後は強引に四の字ロックを外してスタンド勝負に戻してみせた。

この目まぐるしくて激し過ぎる展開の読めない極上の攻防戦に満員の観客は大熱狂して、まだまだ無観客試合の余韻が残るUFCに「人生を賭けた選手+満員の観客の熱狂と声援=能力を超越した神試合」のMMAの方程式を今一度、思い起こしてくれた瞬間だった。

やはりスタイルは全く違えどこの2人は判定嫌いの名勝負製造機なのだ!この時点で観客はチケット代の元は取った。

バックを取られ劣勢だったチャンドラーは決死の攻防でスタンドに戻すや否やさっきまでの劣勢が嘘の様に凄まじい圧力でオリヴェイラを後退させ、左フックから何試合もこれで制してきた得意の右の鬼パンチでダウンを奪ってからの鬼パウンドの雨あられというチャンドラーの完全必殺フルコースに持ち込んで正直ここでストップがかかり勝負有り!新王者誕生!2大メジャー制覇!
…だと誰しもが思ったがどこまでもハングリーでこのチャンスを逃せない苦節11年のファヴェーラの夢を背負ったオリヴェイラは必死に頭を振ってパウンドを散らしてガードワークを駆使してギリギリで1Rを凌いでみせた。

正直、ダン・フッカー戦でもみせたチャンドラーの必殺フルコースは完全必勝パターンでありオリヴェイラはダメージも深刻で頑張ったがここまでに思えた…ファヴェーラの夢はアメリカの超人アスリートに打ち破られて飲み込まれてしまう。1Rは凌いだが2Rでパンチを効かされパウンドアウトされるだろう。誰しもがそう思った…

そんなオリヴェイラにとって絶体絶命の2R、我々の思惑と反してファヴェーラの夢の目は全く死んでなかった。

ダメージを考えず1Rと同じく開始早々、自ら距離を詰め、特攻の覚悟を決めたオリヴェイラは鉄人チャンドラーと打ち合い、なんと起死回生の左フックを浴びせてダウンを奪い、金網に追い詰めてヒザやヒジで一世一代の猛攻をかけ、逃げるチャンドラーに最後は追いかけながらの執念の左フックで倒し、パウンドアウトで奇跡の大逆転勝利を呼び込んだ!

苦節11年…いや生まれてからずっと苦労してきたのだから苦節31年…不屈の脇役の執念が報われた瞬間だった!オリヴェイラの覚悟と勇敢さが奇跡を起こしたのだ!

想像を絶する過酷な人生を歩んで、貧民街という意味の”ドゥ・ブロンクス”という通称を持つチャールズ・オリヴェイラは勝利してすぐ喜びを爆発させた。観客はこの上ない逆転劇に熱狂し、最高の勝利をしたオリヴェイラを手を叩いて祝福した。まるでオリヴェイラ主演の「ドゥ・ブロンクス〜ファヴェーラの夢〜」という映画のラストシーンの様な魂揺さぶる感動的な光景だった。

そりゃ金網も飛び越えるわ!

ただ今回の飛び越えはマクレガー陣営に激怒した前王者ヌルマゴメドフの憤怒の飛び越えではなく溢れ出る喜びを抑えられなかった歓喜の飛び越えだ!罰金は野暮ってもんだぜUFCよ。

UFCライト級新王者チャールズ・オリヴェイラ、本当におめでとう!素晴らし過ぎる最高の試合だった!

敗れた鉄人マイケル・チャンドラーも素晴らしかった!一点の曇りもないアメリカンMMAの最高峰を見せつけて超人的アメリカンアスリートとしての矜持を示し、最上のタイトルマッチで全世界を魅了した。
「史上最強の外敵ここにあり!」で敗れて評価は一切落ちず、負け惜しみも一切しないで「地球上で最強の一人といわれる男と戦った。チャールズ・オリベイラは本物だ。でも、私もやり直して必ず戻ってくる。1年以内にUFCのベルトを巻く!」とオリヴェイラを讃えつつ高らかに復活を宣言するアスリートの鏡の様な清々しいコメントは、このタイトルマッチの価値を更に高めた。

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チャールズ・オリヴェイラ、マイケル・チャンドラー。2人とも最高だった!UFCが世界に誇る神試合だった!

そしてファヴェーラの夢は続き、オリヴェイラは脇役から主役に成り上がり、王者として夢のビッグマッチに歩を進める。マクレガーvsポイエー3の勝者とのタイトルマッチも充分にあり得る。

UFCで稼いだ金をファヴェーラに寄付したり大量の食料を送る心優しき「ブラジルの伊達直人」UFCライト級新王者チャールズ・オリヴェイラの夢の続きを楽しみに見守りつつ、まだまだ収まる事のないライト級スターウォーズの行方に心躍らせようではないか!

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御後が宜しいようで。

文・鬼越トマホーク・坂井良多

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