前回はデニス・ロッドマンのデトロイト・ピストンズ時代の話を書いたが、今回はシカゴ・ブルズ時代についてだ。

ロッドマンはピストンズからサナトニオ・スパーズに1993年シーズンを前に複数の選手が絡むトレードで移籍をしたが、トレードのメインの相手は前年に1試合平均17.2点を挙げた若きSF、ショーン・エリオットだった。
ロッドマンはスパーズに在籍した2年間、当然の如く2年連続リバウンド王になり、デイヴィッド・ロビンソンとの2枚看板のような状態になった。2年目にはエリオットも戻ってきた。この年のメンバーを見て仰天したのが、ジャック・ヘイリーがスパーズにいたことである。
6-10、240lbの典型的パワーフォワード体型のスローな白人選手で、10年間のNBA在籍中、341試合出場、1試合平均3.5点、2.7リバウンド、0.2アシスト、9.7分出場という「大差がついた試合の終盤、レギュラーを休ませることこそワシの活躍の場!」といった選手だ。元々は我がシカゴ・ブルズのイケメン選手として知られていたが、なんとロッドマンとスパーズでチームメイトだったとは……。
ヘイリーがもっとも有名なのは、そのプレーではなく、エアロスミスのヒット曲『Love in the Elevator』のPVにエレベーターの前で女性を抱える巨漢が登場した時だ。これがヘイリーなのである。「エアロスミスのPVに出た」ということで抜群の存在感を発揮したのである。
いや、申し訳ない。ヘイリーはどうでもいい。ロッドマンである。94-95シーズン終了後、ブルズファンのオレにとっては狂喜乱舞のトレードが発表された。ロッドマンとブルズのウィル・パデューのトレードである。
パデューは94-95シーズンこそ78試合中78試合先発、FG成功率は55.3%、8.0得点、6.7リバウンドという「まぁまぁの成績」をあげた。ブルズの初回の3ピートの際のスターティングセンターだったビル・カートライトレベルの成績ではある。及第点とはいえよう。だが、パデューといえば、ルーキーだった88-89シーズンからずっと見てきたが、「デカいだけ」という選手で、ドラフト1巡目で白人だっただけにシカゴ・スタジアムのファンは優しく、彼が点を取るだけで拍手喝采だった。
パデューはキャリア全体を見ると1試合あたりの最高得点数21、最高リバウンド数23という成績もおさめているが、ブルズの全試合を見ていた自分としてはScottie Pippenよりも給料が高い時期があったのにとんでもないごくつぶしだ、と思うことの方が多かった。
そんなパデューをトレードし、まさかのロッドマン獲得である!これは興奮するしかない。ブルズは90-91シーズンから92-93シーズンまでスリーピートを果たしたものの、マイケル・ジョーダンの1回目の引退もあり、93-94、94-95シーズンは優勝を逃していた。そんな中、ジョーダンが本格的に復帰した1年目、ロッドマンが加入したのである!
Horace Grantはいなかったが、Scottie Pippenもトニー・クーコッチもいる。センターはパデューは去ったがドラフト1巡目ながらもパッとしなかったPF/Cのステイシー・キングとのトレードで前年のシーズン途中で獲得したルック・ロングリーがいた。ロングリーが、カートライトレベルの活躍はできることは明白だった。
ここからオレは「ブルズは今年は優勝する」という確信を得る。もちろん2度目のスリーピートをするということはこの段階では分からなかったが、少なくともブルズの初優勝である90-91シーズンよりは強いことは分かった。それはすべてロッドマンの加入によるものだ。結果的にブルズは72勝10敗というとんでもない成績でぶっちぎりの優勝をし、ファイナルでもシアトル・スーパーソニックスをこてんぱんに叩きのめす。それでは、本稿の主題として、以下を考えてみる。
シカゴ・ブルズ、1回目の3ピートと2回目の3ピート、どんだけ実力差があったのか
である。オレは最大の要因はロッドマンとHorace Grantの実力差だと考えている。
2つ目の要因は、クーコッチという信頼できる控えのFWがいることだ。何しろ初優勝の時の控えFWの1番手といえば、以前紹介した「明るいだけ」のクリフ・レビングストンだったのだから実力差は明白だ。
そして3つ目の要因は、ロン・ハーパーという6-6と背の高いポイントガードがおり、6-2のジョン・パクソンよりもディフェンスが圧倒的に良い、ということだ。ハーパーについては、仮にジョーダンが休んだとしても、代わりのシューティングガードとして18点ぐらいは取れる期待があった。なにせ、ハーパーはクリーブランド・キャバリアーズでのルーキーの年に82試合すべてに先発し、1試合平均22.9点を挙げるほどだったのだから。その後も22.8点やロサンゼルス・クリッパーズではエースとして20.1点を挙げるなどした。
さて、1回目の3ピートの初年度の勝利数は61勝21敗だった。2年目、3年目は以下の通り。
【2年目】
91-92シーズン:67勝15敗(セントラルディビジョン1位)
96-97シーズン:69勝13敗(セントラルディビジョン1位)
【3年目】
92-93シーズン:57勝25敗(セントラルディビジョン1位)
97-98シーズン:62勝20敗(セントラルディビジョン1位)
1回目の3ピートの時は、2年目に勝利数が上がったが、これはPippenとグラントの円熟味が増した、ということが影響しているだろう。3年目については、この2人とジョーダン、B.J.アームストロング以外もろもろ衰えた、ということだ。特に、92-93シーズンの先発センター・カートライトの衰えは顕著で、一応63試合中63試合に先発しているものの、平均プレイ時間は19.9分で、バックアップのスコット・ウィリアムスの19.3分とあまり変わりない。試合後半の重要な時はウィリアムスがセンターを務めることも多かった。カートライトは平均得点5.6、平均リバウンド3.7で、ウィリアムスの5.6、6.4に完全に劣る。
ちなみにオレはカートライトと会ったことがある。1989年のシカゴ・スタジアムでのサクラメント・キングスとの試合は「ポラロイドナイト」とされ、ポラロイドカメラで選手と一緒に写真を撮ることができ、サインをしてもらえたのだ。
ジョーダンと撮影をしたい人は多過ぎてオレはPippen、ジョン・パクソン、B.J.アームストロング、ステイシー・キングと一緒に撮影した後にカートライトと撮影をしてもらったのだが、彼は16歳のオレのことを女と思ったのか「My Japanese girl friend」と言ったのである!
ロッドマンのブルズ時代を語るにあたり、前置きが長くなり過ぎて申し訳ない。ここから本題に入る。本稿でもっとも主眼としたいのが、Horace Grantとロッドマンの実力差である。以下、2人の成績を比較してみよう。また、最初の3ピートの際のフォワードの1番手(レビングストン&マックレー)と2回目の3ピートのフォワードの1番手(クーコッチ)も比較する。数字は「得点」→「リバウンド」→「アシスト」である。
【1回目】
Grant:12.8、8.4、2.3
英語で言えば「Solid(堅実)」といった数字である。チームの3番手によくいる数字だ。
Rodman:5.5 14.9 2.5
得点については目を引くものではないが、リバウンド数とグラントを上回るディフェンス力(グラントも相当ディフェンスは強いが)ではロッドマンが上だろう。
【2回目】
Grant:14.2、10.0、2.7
これもSolid具合が高まり、なかなかである。NBA All-3rd Teamは取れたかもしれない数字だ。
Rodman:5.7 16.1 3.1
前年と同様の評価である。
【3回目】
Grant:13.2 9.5 2.6
この年もSolidだ。チーム3人目のスターとしては十分過ぎる数字である。
Rodman:4.7 15.0 2.9
これも同様の評価はできるものの、やはりロッドマンのリバウンド数のハチャメチャさとディフェンス力を考えればグラントよりも上と言って良いだろう。
そして、1番手フォワードの差である。
【1回目】
Cliff Levingston:4.0、2.9、0.7
Kukoc:13.1 4.0 3.5
【2回目】
Levingston:3.9 2.9 0.8
Kukoc:13.2 4.6 4.5
【3回目】
Rodney McCray:3.5 2.5 1.3
Kukoc:13.3 4.4 4.2
クーコッチについては、97-98シーズンの翌年は途中までブルズの先発だった(途中でトレードされた)のだが、18.8 7.0 5.3というすさまじい成績をあげている。また、ジョーダンが引退していた(途中復帰した)94-95シーズン(2年目)も15.7、5.4、4.6となかなかである。
McCrayについては、ディフェンシブ2ndチームに87年と88年に選ばれるなど、これまたSolidな選手だった。サクラメント・キングスでは89-90年に全82試合に先発し、1試合39.5分に登場。これはこの年のNBAでもっとも長時間のプレイ時間だ。16.6点、8.2リバウンド、4.6アシストを記録するSF/PFとしては、かなり有能な選手である。しかし、92-93シーズンに関しては31歳にしてキャリアの最終年にあたる。チャンピオンリングを獲得して有終の美を飾ったといったところだろう。
かくして、控えのNo.1フォワードの差は大いにあれど、やはり勝利数を考えると2回目のスリーピートの方が圧倒的に強かったことが分かるだろう。ロッドマンとクーコッチがいることにより、スピード重視のラインナップが組めるほか、ハーパーもいるため、ジョーダンの休める時間を捻出できたのだ。しかも、ジョーダンがいなくてもこんなラインナップを組める。これはパワーとスピードをすべて兼ね備えたラインナップである。ここではセンターも控えのBill Wenningtonを入れてみた。
SF:Toni Kukoc
PF:Dennis Rodman
C :Bill Wennington
PG:Ron Harper
SG:Scottie Pippen
まさかのPippenをシューティングガードに起用するというラインナップである。6-6のハーパーと6-8のPippenがガードでいるということは、もはや相手の6-2&6-6のガードコンビであれば太刀打ちできない。小さな選手はスピードのアドバンテージがあるが、何しろハーパーもPippenも速い。さらに、得点力重視でこんなラインナップも可能だったのだ。
SF:Pippen
PF:Kukoc
C :Rodman
PG:Michael Jordan
SG:Steve Kerr
シューティングガードにカーを入れてアウトサイドから3点シュートを打たせまくらせる。そして、無茶苦茶だがロッドマンにセンターをさせてしまう。ロッドマンは6-8だが、7-0のデカいセンターも相手にすることは可能だった。
オレは当時NBAでNo.1かNo.2のセンターだったハキーム・オラジュワンと対峙したシーンを見たことがあるが、あの細い体でロッドマンはオラジュワンを抑え込む、とまではいかぬまでも実力派のセンターレベルの対応はできていた。
そして、3ピートするには当然NBAファイナルでウエスタンカンファレンスの強豪を相手にしなくてはいけないが、シアトル・スーパーソニックスはショーン・ケンプ、ユタ・ジャズはカール・マローンである。
共にリーグ屈指のパワーフォーワードだがロッドマンはこの2人をイラつかせ、まともにプレーをさせなかった。心理戦でも圧勝し、ブルズはファイナルで危なげなく4-2でスリーピートを果たす。1回目の3ピートの時、Horace Grantが対峙したのはA.C.Green、Buck Williams、Charles Barkleyだったが、その時以上の安定感をロッドマンは発揮していた。
今でも思うが、1996-98年のブルズのスリーピート、ロッドマンがいなかったらどうなっていただろうか……。Anthony Masonクラスがいたらなんとかなったかもしれないが、72勝、69勝をするのは無理だっただろうし、ファイナルも4-3となっていたのでは。かつて、デトロイト・ピストンズ時代、ブルズファンのオレが大嫌いだったロッドマンはかくして自分にとって大好きなNBA選手トップ3に入ることとなったのである。
文・中川淳一郎
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