社会のクズ、はみ出し者たちへ マイク・タイソンがカムバックする理由

あのマイク・タイソンがリングに帰ってくる。54歳となった元世界ヘビー級統一王者、伝説の帝王タイソンが自らグローブを身につけ、再び我々の前でファイトを見せてくれると言うのだ。この報に世界中のボクシングファン、格闘技ファンが湧いたことは今更言うまでもないが、これがいかに奇跡的なことか。

それは、自ら執筆した2013年の自伝『真相—マイク・タイソン自伝』(ダイヤモンド社)を読めば読むほどに分かる。その圧倒的戦歴以上に、タイソンの人生はドラマに満ちているのだ。

『真相—マイク・タイソン自伝』のページ毎に明かされる無数のエピソードは、あまりに壮大で破天荒だ。身長178センチという、この階級では小柄な体躯には、濃密な生が流れており、まるで100人分の人生を1人で生きてきたかのようである。それは神話にも似た、栄光と凋落、喪失と再生の壮大な個人史であり、また、アメリカに生まれた1人の黒人の物語でもある。こと細やかに語られる逸話の数々からは人種問題、貧困、ドラッグ、精神病理、機能不全家庭、虐待などなど、あらゆる現代病理浮き彫りにされるが、今日ではなおさら読み応えのある内容になっている。

貧困と差別の中、ほぼ何も持たず生まれ、しかし若くして全てを手に入れ、そしてやがて全てを失うタイソン。世界に愛され、そして激しく憎まれた彼が真に戦ってきた相手とは? タイソンが辿りついた答えとは? 本当の愛とは?

示唆に満ち、まるで哲学書のような本著は、ボクシングファンだけでなく、全ての人々に向けられたタイソンからの手紙だ。「人がよりよく生きるため、人々に伝えらえることはすべて伝えよう」という深い慈悲と覚悟のようなものが、この自伝からは感じられる。冒頭には“社会のはみ出し者たちみんなに、本書を捧げる”と始まる一文があり、そこから続けられる言葉はあまりに純粋で献身と愛に満ちたものだ。

このたびのカムバック戦には批判も多い。「茶番になるに決まっている」とか「ただの見世物でしかない」といった批判だ。しかし、インタビューで「なぜ今カムバックするのか?」と尋ねられた際の「自分のような社会のクズどもを救済するためだ」という彼の言葉が、本著を読めば本心であることが分かるはずだ。タイソンは救済と贖罪、愛と献身への長い道を行ったり来たりしながら、今も歩いているのである。

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