K-1王者 木村ミノル、3連続豪快KOの裏側 ドーピング疑惑も一蹴

木村“フィリップ”ミノルはK-1のリングで鎬(しのぎ)を削るファイターであると同時に、我々と同じく日々配信される最新の音源やMVをチェックし、ストリートの動向に注意を払う熱心なラップファンでもある。この連載では、そんな木村選手のラップと格闘技まみれの日常をお届けしていく。

今回のテーマは3月22日に開催された「K-1 WORLD GP第3代スーパー・ウェルター級王座決定トーナメント」の振り返り。全試合で爽快なKO勝利を決めたこの大会を、木村選手はどう捉えているのだろうか。

『優勝は当たり前』 ゲーム感覚。冷静に戦っていきました

―トーナメントでは凄まじい KO シーンを見せてくれました。今大会では、計量後の会見をキャンセルするなど、試合前の動き方からして、いつもとは違っていましたね。

ミノル「意気込みに関しては、間違いなく誰にも負けていなかったはず。計量後の会見を欠席したのも勝つためでした。告白してしまうと、僕は計量の後に必ず体調が悪くなるんです(苦笑)。計量の後に会見があって、更にその後にルールのレビューとミーティングがあるんですが、トータルで3時間かかることも珍しくない。前々から『体調が良くない中で参加するのは厳しいな』とは感じていたんですよ。で、今回も案の定体調が悪くなったので、これはもう会見はキャンセルしておこう、と。ちょっと申し訳ないんですけどね。だけど勝つことを最優先事項にしたかったので。早めに帰って食事をして、回復に努めていました」

―その甲斐あって見事に優勝を決めました。

ミノル「かなり自分を精神的に追い込んでたこともあって、1回戦で勝つまでは緊張感で張り詰めていました。なんでかって言うと『負けるなら1回戦だな』と思っていたから。まあ何か根拠があるわけでもなく、ジンクスとか思い込みみたいな感覚なんですけどね。1回戦で勝てたことで『これでもう負けることはない』と言う気持ちになれました」

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―和島大海選手をKOした決勝戦も良かったんですけど、個人的には2試合目のエダー・ロープス戦。失神KOがヤバすぎました。

ミノル「2試合目からはもう『ゾーン』に入ってましたね。『優勝は当たり前』と思って、言ったらゲーム感覚。冷静に戦っていきました。対戦相手がリングの上にいる時間を少しでも短くしてやろうってことで『走っていく』スタイルに変えました」

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―ネットとか見てるとミノルさんにドーピング疑惑がかけられてるのなんでなんですかね?

ミノル「あれって城戸選手が『ドーピングをやっている選手がいる』って発言したのが発端だったんですよ。これがまた僕が疑われそうな感じのタイミングと言い回しで(苦笑)。もちろん城戸選手だって僕を疑ってたわけじゃないんですけどね。ただタイミングがメチャメチャ悪かった。まず僕が急遽大会に出ることが決まった時期だったんですよね。さらに僕は肉体改造をしていたので、世の中の人達に『アイツなんか体格良くなってね?』って思われてしまった(笑)。もう疑われる要素ばっかりなんですよ。ネットでも散々な言われ様でしたね(笑)」

―疑惑を払拭するための対応はしたんですか?

ミノル「入場曲でメッセージを出してみようかとも思ったんですけどね。シカゴのラッパー・Juice WRLDと Young Boy never broke Againの 『BANDIT』って曲。この曲の中でJuice WRLDは『I don’t need no molly to be savage』ってラップしているんです。『俺はドラッグなんてキメなくても凶暴になれる』みたいな意味ですね」

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ミノル「好きな曲だったし『ドーピングなんてやってるわけないだろ!』ってメッセージを込めて、試合の時に流したら気が利いてるなと思ったんですよ。でもよく考えたら、誰も気付くはずがないなって(笑)。なので今回はやめておきましたね。ただK -1ファンがもっと音楽を聴くようになってくれたら、こういった隠しメッセージを使ったコミュニケーションも出来るようになるかも。いつか実現したいなと思ってます」

―Juice WRLDが亡くなっちゃいましたよね

ミノル「去年の年末に若くして亡くなっちゃいましたね。結構好きなアーティストだったんでショックでしたよ…。ラップだけじゃなくて、落ち着いた感じの、でもちょっと怖そうな雰囲気が好きだったんですよね」

一人一人がマインドを良い方向に変えていけば、世の中はもっと良くなる

―本当にこれからって感じだったのに残念でしたよね

ミノル「前も話しましたけど、最近若いラッパーが死に過ぎなんですよ…。『死後の世界で待ち合わせでもしてるのかよ』って思っちゃうくらいに。Mac Millerもその1人ですよね。最近ミュージックビデオが出たんですけど、考えさせられました。ご存知の通り、2018年に亡くなってしまったラッパーなんですが、このミュージックビデオが出たのは2020年に入ってから。思い切りチルソングなんですけど、ビデオのテーマは明らかにMac Millerの死なんですよ。最後のシーンで宇宙の一点に向かってMac Millerが飛んでいって消えていく」

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―凄いチルソングなんですけど「I’m running out of Gus(俺はもうガソリン切れなんだ)」とか、リリックのあちこちからから死の匂いがしますよね。

ミノル「けど映像は悲しい感じでもない。おそらくビデオを作った人たちは、ファンに『落ち込みすぎるなよ』って言いたかったんでしょう。個人的には見た後に『死は恐ろしいものではなくて、本来いる場所に帰るだけってことなのかな』って感じましたね」

ーMac Millerは好きだったんですか?

ミノル「ポップなルックスも含めて好きでした。けど見た目とは逆で、実はとても繊細で鬱っぽい人でしたよね。最近思うんですけど、心を病んでしまう人って、世界の本来あるべき姿を、普通の人よりもハッキリとイメージ出来ちゃうんじゃないですかね? だからこそ理想と現実のギャップにやられてしまう。世の中の普通の人たちって、大抵は眼の前のことしか見てないじゃないですか? もしかしたら実現出来るかもしれない、今より素晴らしい世界をイメージすることがない」

―良くも悪くも現状維持志向の人が多いですよね

ミノル「周りに流されて、ひたすら現状を受け入れて生きている人が多い。仕方ないことなのかも知れないですけどね。でもMac Millerは逆。『世界はもっと楽しくて、自由であるべきで、心の壁を取り払おう』って考えていたと思う。『本当の人間らしさってそういうことだろ。そういう風に生きたほうがラクだし、気持ちいいだろ』って。それは、彼の作品を聴いていれば分かりますよ。でも残念ながら、僕らを取り巻く現実の世界は全然そっちに進んでないですよね」

―答えが見えてるのに、逆の方向に向かっている感じすらありますね

ミノル「病んでしまう人が多いのも分かる。僕らはMac Millerみたいな人から影響を受けた方が良いんですよ。そうやって一人一人がマインドを良い方向に変えていけば、きっと世の中はもっと良くなる。このミュージックビデオも、マックミラーの価値観とか人生観みたいなものを投影した作品なのかなって。是非観てほしいですね」

取材・構成・撮影 吉田大

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