ジョーダン、ヒップホップ、スケボー… いかにスニーカーはポップカルチャーのアイコンとなったか

アメリカで2018年に出版され話題を呼んだ『Kicks: The Great American Story of Sneakers』の待望の邦訳版『スニーカーの文化史 いかにスニーカーはポップカルチャーのアイコンとなったか』(ニコラス・スミス 著、中山宥 翻訳/フィルムアート社)が出版された。

そもそもスニーカーは、アスリートのためのスポーツシューズとして開発され、あくまでも機能重視のシューズに過ぎなかったのに、いつの間にか時代を象徴するアイテムになって、破格の値段が付くなど、実に不思議な“アイテム”である。その背景には、飽くなき探究と様々な人々の複雑な運命が絡み合う物語があったのだが、そんなまれな存在であるスニーカーの、誕生からの歴史をたどるダイナミックな物語が軽妙かつ鋭く語られるのが本著。マニアもスニーカー初心者のファンも必読のエンターテインメント本だ。

著者は、政治、環境問題、美術、ゲームまで幅広く取り上げる米ジャーナリストのニコラス・スミス氏。つぶさに調査し記したこの“文化史”は、あくまでスニーカーをめぐる物語だが、物語を追うほどに、スポーツやファッションにとどまらず、音楽、アート、ジェンダー問題、人種問題、産業、国際政治など、近代を構成するあらゆるテーマが浮き彫りになっていくのが興味深い。

でもそんなお気に入りの、Converse、NIKE、Adidas、PUMA、Vans、Reebok、New Balanceのスニーカーが、例えばマイケル・ジョーダン、ジョン・マッケンロー、ビリー・ジーン・キング、スパイク・リー、アメリカの非業の実業家チャールズ・グッドイヤー、RUN D.M.C.、エアロビクス・ブーム、グランドマスター・フラッシュのDJパーティ、80’sのスケートボードカルチャーなどと直結していることを想像する者が果たしてどれだけいることだろう?

チャック・テイラーやスタン・スミスなど、あなたが今日も何気なく履いているスニーカーのモデル名に、どんな由来があるか知っているだろうか? そのモデルのルーツがもしかしたらナチス政権下ドイツの靴工房にあるなんて、想像したことがあっただろうか。ナイキを創設した若いアメリカ人と、日本の誇るオニツカ・タイガー本部がコメディ映画さながらの爆笑ミーティングを繰り広げていたことを知っているスニーカーファンが、どれほどいるだろう。

誰しもの足元のスニーカーは、それらにつながっており、そのことを本著は気づかせてくれる。スニーカー一つ一つが、奥深く広大なポップカルチャーの一部であり、一つ一つに何かしらのドラマが流れる“アイコン”なのだ。そしてまだ浅く短い現代が、足元のスニーカーさながら躍動感と色鮮やかさをもって立ち現れてくる。

『スニーカーの文化史 いかにスニーカーはポップカルチャーのアイコンとなったか』がマニアのための歴史本などと侮ることなかれ。読み心地も快適で軽快、スニーカーの紐を結んだことのある者なら誰もが必読の、愉快な学術書にして最高のエンターテイメント本なのだ。

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