(#1 倒産寸前だったアップルの復活前夜)
(#2 ジョブズ復帰でアップル社内はどう変わったか)
(#3 ティム・クックが変えたビジネスモデル)
(#4 アップルが世界へ宣言したマニフェスト)
「Think different」やiMacなど、印象的な広告を数多く手がけたアップルだが、マーケティングやブランディングを作る方法は一般的な会社のやり方とは違ったと河南氏は話す。
「Think different」を作った広告代理店
大熊:こうしたブランディングや広告はどうやって作っていくのですか?
河南:広告は、スティーブ・ジョブズと広告代理店「TBWA\CHIAT\DAY」の社長リー・クロウとクリエイティブ・ディレクターのケン・シーガルが直接、話し合って固めていました。
アップルのマーケティングは当時、基本「プロダクト・マーケティング」と「マーケティング・コミュニケーション」に分かれていました。プロダクト・マーケティングはスティーブもやっていましたけど、今もアップルにいるフィリップ・シラー(アップルの現ワールドワイドマーケティング担当上級副社長)が基本的には見ていました。
当初、マーケティング・コミュニケーションに関してはスティーブ・ジョブズ自身が見ていたのですが、その後、スティーブ・ウィルハイトがやってきて、彼に任せるようになった。
ウィルハイトはもともとフォルクスワーゲンにいて、ニュービートルのキャンペーンをローンチしたことで注目を浴びていて、それでスティーブ・ジョブズが彼を引っ張ってきた。ただ、スティーブ・ジョブズが結局、色々とやるので、ウィルハイトはやりづらかっただろうと思います(笑)
ウィルハイトはセンスがいいし、私たちにとって良かったのは、エクストリームなジョブズをはじめ、個性的な人が多い中で、ウィルハイトが上手に話をまとめてくれていたことです。日本から変な提案がきても、一応上に提案してみて、ボコボコに言われながら、なんとか調整しようとしてくれていました。一番大変な立場だったと思います。
大熊:iMacの名前も広告代理店が考えていたのですね。
河南:マーケティングはたいてい、クライアントが広告代理店に「ターゲットが誰で、価格付けはこういう形で、商品コンセプトはこうで、こんなところをアピールしたいから提案がほしい」といったブリーフィングをして、3つ、4つ、案をもらいます。その中から選んだり、これをもう少しこういう風にしたいとか言ったりして、最終的なものにまとめます。商品名が決まっている場合もあるし、広告代理店に出してもらう場合もある。
たいていの会社は、社長や結構上の人が、商品や価格、コミュニケーションなどを判断するので、社内の承認をもらっていく必要があります。そこでよく起こるのは、マーケティングの人間が「これだけの広告予算を取ったので、これをやります」と承認を取っていく中で、社長にたどり着くまでに、他の関係ない本部長とかから「これは、ちょっとイケてないよね」とか言われたりする(笑)そうすると広告はつまらなくなる。
ですが、スティーブの場合、クライアントと代理店という関係ではなく、スティーブのブレインがTBWA\CHIAT\DAYのリー・クロウという関係でした。周りの本部長が何を言おうが関係なくて、そこで決まって、それが降りて来る図式です。
たいてい、社長がマーケティング担当の出す案に「こんなとんでもない案を出して!」といった会話があったりするのですが、アップルでは、そもそも社長が直にやっているので、とんでもないアイデアはだいたいスティーブが考えていて、それをTBWA\CHIAT\DAYとまとめていました。
大熊:iMac、良い名前ですよね。
河南:「iMac」はケン・シーガルたちが提案していたのですが、スティーブには3回くらい「こんなつまらない名前は全然ダメだ」と言われているそうです。「実は俺が良い名前を考えているんだ」とスティーブが言って出したのが「MacMan」だったとか(笑)「Walkman」のもじりみたいな名で。そこから来たか分からないですけど。
でもある日、ケン・シーガルがスティーブのところに行くと、何度か「iMacなんかダメだ」とか、けちょんけちょんに言っていたのに、いつの間にか「すごく良い名前がある。iMacだ。いいだろう」って言い出して、ケン・シーガルがびっくりするということがあったとか。
大熊:スティーブの中で一体どんな変化があったのか(笑)
河南:ある提案をして、それがすぐに承認を得られることはほぼないので、何ラウンドか議論して、色々インプットしていくうちに考えが揉まれていくのだと思いますね。それで、最初は「ダメだ」と言っていたのが、だんだん洗練されてきて、「これだ!」というものにたどり着くと、実は最初の提案とまったく同じだったと。
大熊:ケン・シーガルたちは最初から良い提案していたってことですね。
河南:TBWA\CHIAT\DAYはシャープで面白くて、発想が違うなと思いましたね。ロサンゼルスのオフィスに行くと、こういう環境にいれば、クリエイティブになるなと思いました。
私が行ったのは15年以上も前ですが、工場をリモデルして色が塗ってあって、外から見るとオシャレでもなんでもないのですが、通路を渡って中に入ると、部屋が積み上がるようにデザインしてあって、ピックアップトラックがあったり、ミーティングテーブルがサーフボードになっていたり、バスケットボールコートがあったりしました。ここに行けば、みんな自動的にクリエイティブになれるかというと分からないですが、刺激は受けますよね。
大熊:アップルのオフィスはどんな感じですか?
河南:当時、1993年にできたインフィニット・ループにまとめられたところでした。それまでは普通の貸ビルにもオフィスがあったのが、スティーブが戻って全部がインフィニット・ループに移った。真ん中に庭があって、それを取り囲む丸い形の建物です。
その中に、それぞれの部門があって仕事をしています。みんなカジュアルなスタイルで会社に来ていて、偉い人でなくてもだいたい個室があって、みんな思い思いに飾り付けていました。
日本語化を担当していたエンジニアはゴジラが好きで、彼の個室にはゴジラのプラモデルとか人形とかが並べてありましたね。マウンテンデューの缶をピラミッド状に積んでいる人とかもいましたね(笑)他にも卓球台があったり、軽くつまむものとかも無料で置いてあったり。今のグーグルとか、フェイスブックのオフィスにも通じるものがあります。
大熊:TBWA\CHIAT\DAYと作った「Think different」の広告を初めて見たときはどう思いました?
河南:アップルの本社に各国のマーケティング担当者が集まって、「Think different」のブリーフィングがありました。そこでケン・シーガルたちから、こういう人たちを使って、こういうビジュアルを作るといったコンセプトの発表があった。その時、初めて広告を見たのですが、最初はみんな唖然としていましたね。
テレビの広告は30秒あるのですが、アップルの広告だと分かるのはロゴが出てくる最後のほんの数秒だけです。そもそも出てくる偉人たちは、アップルのユーザーでもない。隣にイギリスの担当者がいたのですが、「文法が間違っている、『Think differently』じゃないか」と言ったりして(笑)実際に広告を出して反響があるまで、私もピンと来ていなかったです。
ただ、スティーブとしては、「Think different」でマーケットにアップルの立ち位置を宣言するというのもありますけど、まず社員がアップルのブランドを忘れているじゃないかというのがありました。
社員に対して、「あんたたちがそもそも原点に戻らないといけない」という思いがあって、「Think different」を宣言した。「Think different」はアップルが社員を含め、みんなが原点に戻るためのものだったのです。
「アップルがダメだった時期に、どうやって戻ったか」という話を企業で講演したりもするのですが、参加者に感想を聞くと「ダメになっている時は(自社と)似ているな」と言います。いろんな部署が乱立して、収集がつかなくなって、みんな原点に戻らないといけないと思っているのにいろんな雑念が入って、まとまらなくなっている。落ちているブランドが抱えている課題はどこも似ているのかもしれません。
河南順一/Junichi Kawaminami
同志社大学大学院ビジネス研究科(同志社ビジネススクール)教授。同志社大学商学部卒業、アリゾナ州立大学W.P. Carey School of Business MBA修了。日本マクドナルド、アップルジャパンなどに勤務。ディレクターとしてマーケティング、ブランドマネジメント、広告宣伝、広報、危機管理、エバンジェリスト、社長室などを統括。アップルでThink differentを掲げたブランド戦略の展開、マクドナルドでCEOコミュニケーションの一新を担うなど、ブランド再生や企業イメージの刷新に携わる。
大熊希美/Nozomi Okuma
スタートアップやテクノロジーについて書くライター/翻訳家。ケン・シーガル著『最強のシンプル思考』(日経BP社)を翻訳したご縁で今回の取材を担当させていただきました。
『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』3月21日発売 – 河南 順一(著)

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