SCARS『The Album』でジャパニーズ・ヒップホップ「テレフォンショッキング」が始まった (カミナリたくみ)

人気漫才コンビ「カミナリ」の石田たくみ氏が<ヒップホップにまつわる諸々>を喋り倒す連載がスタート。今回のテーマは、神奈川県川崎市南部を代表するヒップホップ・グループ「SCARS」。2006年に発売され、日本のヒップホップ・シーンに衝撃を与えた1stアルバム『The Album』は、たくみ氏の音楽生活に大きな影響を与えた一枚なのだとか。

『花と雨』のREMIXを作ったらSEEDAさんに本人に届いてしまった!

ーたくみさん、トラック(曲)を作っているみたいですね!

たくみ:実はちょっと前に、AKAIの 「MPC」を買ったんですよ。高いものではなくて、パソコンに繋いで使うタイプです。キーボードとパッドが付いてるやつ。

ーパソコンにインストールした音楽ソフトを操作するコントローラーみたいな感じですか?

たくみ:そうそう。パソコン側のソフトは「Logic」を使っていて、日々サンプリングしてみたり、チョップしてみたり、まあ色々やって楽しんでます。

ー仕事が忙しいと思うのですが、いつトラックを作ってるんですか?

たくみ:家に帰って、メシ食って、子供を寝かせた後ですね。自分の部屋で『Dead by Daylight』っていうオンラインゲームをやりつつ。あのゲームってロード時間が異常に長いんですよね。ちょっとゲームの手が空いたら、MPCをいじってみたいな(笑)

ーYouTubeにアップしてたSEEDAの『花と雨』REMIXもそうやって作ったんですね!

たくみ:元々は自分のラップを乗せようと思って作り始めたんですよ。ところがいざラップを録って、作ったトラックに乗せてみたら良くないんですよ(笑)。ラッパーの皆さんに比べると、どうしようもなく言葉が薄っぺらいし軽いんですよね。「やっぱりプロは違うんだ」なんて落ち込みつつ、なんとなく iTunes を見てたら『花と雨』のアカペラを発見して。早速買って、僕の作ったビートに乗せてみたら、当たり前なんですが全然違うんです(笑)。

石田プロダクション-Ishida production-/YouTube

ー上手いラップはトラックを光らせますよね。完成した曲にリアクションはありましたか?

たくみ:ちょっと嬉しいことがありました。まなぶが(曲のURLを)ツイートしてくれたんですけど、なんとSEEDAさんがRTしてくれたんですよ。SCARSにしろSEEDAさんにしろ、すごく思い入れがあるアーティストなので、本当に感動しましたね。「本人に届いてしまった!」って(笑)

SEEDA/YouTube

ーこれからもトラック制作は続けますか?

たくみ:もちろん。昔聴いていた曲のREMIXなんかを作っていこうと思ってるので、ぜひ聴いてください。最近 は「MPC LIVE II」 も買おうかなとも考えてるんです。

ーパソコンに繋がずに使える上位機種ですね。

たくみ:ただ…13万円は高い!あくまで趣味としてやってることなんで、ちょっと迷う額です(笑)。

ー今日は、どんな音源を紹介してくれるんでしょうか?

たくみ:SEEDAさんの話も出ましたし、SCARSの1stアルバム『The Album』で行きましょう。まず、この連載では「ジャパニーズ・ヒップホップ冬の時代」(※2005〜15年前後)を軸としつつ、幅広く音源やグループを紹介して行こうかなと思っています。で、「冬の時代」というテーマで考えると、やっぱりSCARSの1stは外せないですよね。「ベタ過ぎだろ」という声も聞こえてきそうですけど、これはもうしょうがない!

ーたしかに!いつ頃SCARSを知りましたか?

たくみ:大学に入った頃ですね。上京してすぐにヒップホップ好きの友達が出来たんですが、そいつが川崎出身だったんです。で、ヒップホップ好きが集まると「これ知ってる?」みたいな会話が始まるじゃないですか?その時に教えてもらいました。

ーマニアックな知識でマウントを取り合うアレですね(笑)

たくみ:「あるある」ですよね(笑)。ただ、その友達に関しては、認め合う仲だったんですよ。「お前結構よく知ってるな」みたいな。当時HipHopが好きな友達って、そこまで多くなかったですけど、本当に少数精鋭って感じでした。みんな相手の好みを察して「これも好きだと思うよ」ってアーティストや音源を紹介してくれるんです。今はApple MusicとかSpotifiyが色んなアーティストを紹介してくれるじゃないですか?あれを人力でやってたわけです。ただ精度はすごく高かったですね。本当にたくさんの良い曲を教えてもらったように思います。

ー青春ですね!

たくみ:とはいえ地域に密着したラップのことまでは、カバーが出来てなかったんですよね。だから地元のラッパーについての情報を交換してたんです。僕は茨城のラッパーのこと教えてあげて、その引き換えに教えてもらったのが、彼の地元である川崎で活躍していたSCARSの『The Album』。このアルバムは、僕がまだ高校生だった2006年に出ていますから、少し遅れて聴いた形ですね。

ーローカル(=地域密着型)ラップの魅力とは?

たくみ:日本全国の地域の表に出ない部分を教えてくれるから面白いですよね。茨城にいた時の僕にとって、川崎はラゾーナやサッカーのチームがある「住心地の良い便利な都会」でしかなかった。でもSCARSを通じて、そんな街にも裏側があることを知る事が出来ました。

ヒップホップリスナーとしての「幅」を広げてくれたSCARS『The Album』

ー初めて『The Album』を聴いたときの感想をお聞かせください

たくみ:僕はポッセカットとかマイクリレーみたいなラッパーが沢山参加している楽曲が好きなんですよ。で、SCARSは人数が多いので、そういう曲が多いはずだと勝手に期待してたんです。ところが、いざ『The Album』を聴いてみると全然違う(笑)。楽曲ごとにメンバー数人が参加してる感じなんですよね。曲によって組み合わせもバラバラで。『1Step,2Step』に至っては、BESさんのソロですから(笑) 

Scars - Official/YouTube

ー最初はピンとこなかった感じですか?

たくみ:一聴してみて「カッコイイな」とは思ったんですけど、とにかく「思ってたのと違う!」って気持ちが強かったですね。どういうグループなのかも全然わからない状態で聴いちゃったので、ちょっと距離を感じたってのが正直な所です。けどジャケットに「bay4k」の名前を発見した瞬間に、一気に身近に感じられたんですよね。「あ!これ『リンカーン』に出てた練マザファッカーの人じゃん!」って(笑)。そこからは、しっかり聴き込んでいきました。

ーある意味コンピレーション・アルバムっぽい音源ですよね

たくみ:このアルバムでBESさんやA-Thugさん、先日亡くなられたSTICKYさんを知って、メンバーのソロ音源を聴くようになりました。SEEDAさんとDJ ISSOさんの人気コンピ・シリーズ『Concrete Green』も、このアルバムをきっかけに知りましたね。その後『Concrete Green』収録のアーティストを聴くようになりました。だから『The Album』って、僕の音楽生活を豊かにしてくれた作品なんですよ。僕の中でジャパニーズ・ヒップホップの「テレフォン・ショッキング」が始まるきっかけを作ってくれたというか。

強烈な個性が集まった集団「SCARS」

ー『The Album』を聴き込んでみて、グループにどんな印象を受けましたか?

たくみ:本当に個性豊かな人達です。 ラップのスタイル、考え方、メッセージが、メンバーによって全然違う。BESさんなら、フロウや音の乗りこなし方ですよね。『1Step,2Step』は聴いた瞬間に「ヤバ過ぎる」って感じました。 本当にかゆいところに手が届くと言うか「こういうのが聴きたかったんだよ」って感じ。結構驚いたのがSTICKYさんのラップで、とにかくリリックがネガティブなんですよ。逆にBay4Kさんは、ずっとポジティブな事しか言ってない(笑)。

ーリーダーであるA-Thugさんはどうですか?

たくみ:A-Thugさんは、割と説明が難しいラッパーなんですよ。こんなこと言うと怒られるかもしれないけど、良い意味で「子供みたい」な感じ。言葉に飾り気がないと言うか、本当に頭に浮かんだ言葉を格好つけずにそのまま出している。例えば普通のラッパーだったら「スニーカー履いてGO OUT」みたいな表現をするじゃないですか?でもA-Thugさんはシンプルに「靴を履いて外へ行こう」なんです。

ー「腹いっぱいなら幸せだろう」みたいに、極限までシンプルな言葉で本質を突いていくみたいな。

たくみ:とにかく誰も他のメンバーに似てない。すごいですよね。アルバムを通して聴いていると、スタイルとかテンションの落差がすごくて、気持ちが引っ張りまわされる。その辺りもSCARSの魅力なんだろうと思います。

ー強すぎる個性がぶつかりあって、中々グループとして動き出せなかったっていいますよね。

たくみ:そんなSCARSが動き始めたタイミングでSTICKYさんが亡くなってしまった…。本当に残念ですよね。

STICKY Official/YouTube

革ジャンに金とダイヤのネックレスは、SCARSだからこそカッコイイ

P-VINE CHANNEL/YouTube

ーここ最近のSCARSは、積極的にアパレルを展開しています。たくみさんもコーチジャケットを着てらっしゃいましたよね。

たくみ:番組にI-DEAさんとBESさんがいらっしゃった時に、I-DEAさんが着ていたんですよ。気になったんで「それ、めっちゃ良いですね」って言ったら、その場でバッと脱いで「あげるよ!」って。本当にビックリしました(笑)。

https://www.instagram.com/p/CJfIGSXF7NN/

ー粋ですね!カッコいい!

たくみ:「良いんですか!?」って言ったら「せっかくだから、事務所に新品を送るよ」って話になったんです。しばらくして、BESさんもパーカーを送って下さいました。

ーそれは嬉しいですねえ!

たくみ:実はコーチジャケットが届いた時、ちょっと落ち込んでたんですよ。というのも『SASUKE』に出たのですが、本放送を見たら5秒ぐらいのダイジェストになっていたんです。芸能人なのに一般の方より短い尺。もう恥ずかしいやら情けないやらで気持ちがモヤモヤしてたんです。けどコーチジャケットが届いた瞬間に、一気にテンションが上がっちゃって。本当に単純ですよね(笑)。まなぶにも笑われました。 

ー SCARS のファッションから影響を受けたりはしましたか?

たくみ:かっこいいとは思うんですけど、真似はしなかったですね。僕がアレをやると「ちびっこギャングスタ」みたいになっちゃうので。革ジャン、ゴールドとダイヤのネックレスみたいなスタイルは、あくまでSCARSがやるからカッコイイんです。僕が来たら絶対「かぶれ」みたいになる(笑)。

ーたしかに人を選ぶスタイルではありますよね

 たくみ:僕がファッションの参考にするのは、基本的に体型が似ているラッパーなんですよね。だからSCARSでいえばSEEDAさんに目が行くんですが、どう考えても僕には似合わなそうなスタイルなんです。 とにかく独特。でも不思議と似合ってる。「なんでだろう?」と考えたんですけど、やっぱりロンドンで育ったからなんじゃないか、と。茨城出身の僕には無理という結論です(笑)

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