「錦鯉みたいに戦うベテランがカッコいい」 カミナリたくみ、2021年推したいラッパー

茨城弁による掛け合いと激しい「どつき」で注目を集める人気漫才コンビ「カミナリ」の石田たくみ氏は、お笑い界を代表するヒップホップ・ファンとして知られている。本連載は、そんなたくみ氏が愛して止まない「日本のヒップホップ」について喋り倒すインタビュー企画である。第4回のテーマは「2021年にブレイクしそうなラッパー」

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「ラップやってるんです」と話しかけてきたB-BOYの正体

ー 最近の若手で注目しているアーティストっていますか?

たくみ「また茨城のアーティストになっちゃうんですけど、トラックメーカーの呼煙魔さんとラッパーのG-YARDさんが、2019年の5月に出した『纏』が良かったです。G-YARDさんは『高校生ラップ選手権(※)』から出てきたラッパー。僕の十歳ぐらい年下なんですけど、素直に格好良いと思いました」

※高校生ラップ選手権:BSスカパー!のバラエティー番組『BAZOOKA!!!』が企画したMCバトル。T-pablow、Wily wnka、Leon Fanourakisらを輩出している。G-YARDは第9回に出場。

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―会ったこともあるみたいですね

たくみ「TV番組のロケ中に、二人組の兄ちゃんが近寄ってきたんですよ。ちょっと身構えたら、割と丁寧な感じで『カミナリさんですよね?僕らラップやってるんです!』って。で、顔を見たらG-YARDさんなんですよね。『そうだよね!?』って聞いたら「そうっす!!」って。もう、お互いにテンション上がっちゃって(笑)」

ー気になっていた人との嬉しい出会いですね

たくみ「『いや〜”纏(マトイ)”聴いてるよ!」って言ったら、すかさず『あれは“テン”って読むんです!」って、間違いを指摘されてしまって(笑)。で、どうやら下北沢の友達と『Sound’s Deli』というラップのクルーをやっているらしい。気になったんで早速聴いてみたら、これが良かった」

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たくみ「若手のクルーってことで、勝手にTRAPを想像してたんですが、全然そんなことなかった。もっと肩の力が抜けた感じで、僕が好きなC.O.S.A.(※)さんみたいなフロウのラッパーもいました。いや、すごく良いじゃないか、と」

※C.O.S.A.(こーさ):愛知県知立市出身のラッパー/トラックメイカー。2015年に初のラップアルバム『Chiryu-Yonkers EP』をリリースして注目を集める。KID FRESINO とのコラボレーションでも知られる。

「今年はベテランにも注目して欲しい」

ーG-YARD やSound’s Deli の名前が出た流れでお聴きします。2021年ブレイクしそうなラッパーは?

たくみ「正直全然わかんなくて(笑)。芸人も同じですけど、ブレイクするにはタイミングも重要なんです。ただ『個人的に注目を集めて欲しい』というところで言えば、僕が一生懸命ラップを聴いていた2010年前後に活躍していた人たち。まあベテラン勢ですよね」

ー新人じゃないんすね。なにか理由が?

たくみ「お笑いファンの間で『第7世代』が注目を集めてるじゃないですか?けど僕が好きなのって、結局おじさんたちなんですよ。たとえば去年のM-1決勝に残った『錦鯉』。昔からライブでお世話になっている先輩で、年齢的にはもう50歳近い。すごく好きなんですよね。メチャメチャ年上の方々の死ぬほど下らないボケって、やっぱり笑っちゃう。スベるにしたって先輩のほうが全然面白い。重ねた年の分だけ哀愁が凄いんですよ(笑)」

ーコクが違ってきますよね

たくみ「そうそう。M-1もヒップホップも、基本的には若手の方が注目を集めやすいですよね。メディアの皆さんからしても『天才新人現る!』みたいな形で扱いやすいじゃないですか?

―若手芸人はイマイチですか?

たくみ「いやいや。ヒップホップ界にSound’s Deliがいるように、面白い若手芸人は沢山いますよ。もちろん応援してるんですが、若手にとって有利な場所でベテランが活躍したら、もう単純に格好良いじゃないですか?」

―意外性もありますよね。

たくみ「最近でいえば2019年にB.I.G.JOEさんが『Tenderness』を出したじゃないですか。前回紹介したGEEKのアルバムとか、ずっと好きだったSEEDAさんが出してくれた『不定職者』の新しいバージョンとかもそう。本当に嬉しくなりますよね」

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ー新作を出して欲しいOGっています?

たくみ「欲を言えば、地元のヒーローであるLunch Time Speaxなんですけど、色んな事情があったりもすると思うんですよ。だから…(ちょっと考えて)GOCCIさんのソロですね」

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―ここ数年はフィーチャリングで存在感を発揮している印象です。先ほど名前が出た呼煙魔のアルバムにも参加してましたね。

たくみ「GOCCIさんは、僕らがあちこちでLunch Time Speaxの話をしていることを知ってくれているらしくて。少し前、まなぶにDMをくださったらしいんですよね。『いつもLunchの話をしてくれてありがとう。 たくみ君にもよろしく』って。珍しくまなぶが興奮していました(笑)。 まあ、そう言いつつもGOCCIさんにもご自分のペースがあるでしょうし、まずは既発曲に注目が集まってくれれば、というところでしょうか!」

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とにかく探したESSENCIALの「BACKYARD Radio pt.1」

たくみ「そもそもの話になっちゃうんですけど、ヒップホップって『自分しか知らない』感じが楽しい音楽じゃないですか?『同級生は誰も聞いてないけど、実は格好良いんだぜ』みたいな」

―自分が特別な人間になったような気分になるというか

たくみ「だから極端な話『俺と仲間だけが知ってればOK』みたいな感覚もあったんですよ。少なくとも若い頃の僕はそうやってヒップホップを楽しんできたんです」

―ところが心境が変わってきた。

たくみ「そうそう。だから今こそオススメしたい音源が結構沢山あるんです」

―どんなスタイルで音楽を聴いてるんですか?やはりストリーミング?

たくみ「僕は音楽を『モノ』として手に入れるって、結構大事なことだと思ってるんです。だから今もCDです。昔持っていた音源を買い直すことにもハマってますね。というのも手放してしまったり、誰かに貸したままになってたりするから。わざわざ地元の友達の家まで回収に行くこともあります(笑)」

ー購入はどちらで?

たくみ「もちろんレコード屋さんとかCD屋さんにも行くんですけど、ブックオフとかリサイクルショップも多いです。時々イイ雰囲気を放ってる店があるんですよ。日本のヒップホップのCDが大量に眠っていそうな(笑)」

―東京近郊のリサイクルショップを巡回するディガーは多いらしいですよね。最近買えて嬉しかった盤は?

たくみ「ESSENCIALの『BACKYARD Radio pt.1』です。これに関してはどうしても見つからなくて、泣く泣くメルカリで買ったんです」  

―しかしESSENCIALとはシブいチョイスです

たくみ「一応説明しとくと、ESSENCIALはSmith-CNさんとSnipeさんの2 MC。もちろん今のSmith-CNさんも格好良いんですけど…」

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たくみ「でも僕は若い頃も大好きなんです。言ったら『チャンピオンのパーカーを着ている時代のSMITH-CN』。見た目もラップもハングリーなんですよね」

ー当時はチャンピオンの「スーパーフリース」が流行ってましたよね。

たくみ「おそらく金が無いから、めちゃめちゃ高い服というのは着られなかったんじゃないか、と。でも全然格好良いんですよね。安くて、どこでも買える服だけど、すごくHIP HOP らしいというか。 ZORNさんについて話した回でも言ったけど、僕はそういう『なんでもない服』が好きなんです」

―ESSENCIALで好きな曲は?

たくみ「『ESCAPE to Paradise』 っていうI-DeAさんが作った曲ですね。2006年リリースの音源だから、もう11年前ですか…。いやー懐かしい。ESSENCIALっていったらサービスエリアで有名な守谷(※)ですよ!

※サービスエリアで有名な守谷(※):常磐自動車道の守谷SAは大型フードコートや茨城県の名産が買える大型商業施設として知られている。

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たくみ「ESSENCIALは SMITH-CNさんとSnipeさんの声のバランスが最高なんですよね。あとSEEDAさんも参加してる『BACK IN…』も外せない。(聴きながら)はあ〜良いな〜」

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たくみ「この辺の曲は是非探して聴いてみて欲しいです。と言うかBACKARD(※)のオフィシャルYouTubeチャンネルで聴くことが出来るんですけどね。ちなみに、そのチャンネルがアップしている楽曲は基本的に全て格好良い」

※BACKARD(ばっくやーど):SMITH-CNが地元で結成したHIPHOPクルー

ーたくみさんって『CONCRETE GREEN』(※)は聴いてました?

たくみ「もちろんです!I-DeAさんが曲を作って、オーディションをやったりもしてましたよね。友達のラッパーが曲を作って応募したんですけど、残念ながら落ちちゃいました。その時に選ばれたのがYAN-MARK(※)さんの『STORY』なんですよ。ただ、あの曲って今となってはどこでも聴けないんですよね…」

※CONCRETE GREEN(こんくりーとぐりーん):SEEDAとDJ ISSOによる人気MIX CDシリーズ。多くのラッパーを発掘し、ゼロ年代のジャパニース・ヒップホップシーンに強い影響を与えた。

※I-DeA(あいであ):SEEDAはじめ数多くのラッパーの作品を手がけてきた日本を代表するトラックメーカー〜プロデューサー。

※YAN-MARK:BACKARD所属のラッパー。「CONCRETE GREEN」と某局が合同開催したオーディション「YOUNG GREEN」で第1弾アーティストに選ばれた。

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―YAN-MARKですか。さらに渋い名前が出ましたね。最近だとSMITH-CN との「IMINARANAI」が超イルでした。

たくみ「ESSENCIALとやってる『年末SHIT』って曲のYAN-MARKさんが良いんですよ。 一体いつの年末だって感じなんですけど、この曲がめちゃくちゃ良い。たしか『HOT なんちゃら』っていうMIX CDに入ってたと思うんですけど…」

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ー調べたところ『HOT 029 Vol.2』ですね。2010年12月にリリースされてます。しかしよく覚えてますね…。

たくみ「(曲を聴きながら)SMITH-CNのフローが今の感じに近付いてきてますね。僕は、BACKARD周辺が大好きなんですよ(しみじみ)」

―じゃあ2021年に一番推したいアーティストは…

たくみ「もうESSENCIALしかないでしょう!」

あえて中古CDを買う〜探し出すのは難しいけど、だからこそ楽しい

―今回も楽しいお話ありがとうございました。

たくみ「そういえば今回は言いたいことがあって、それはYouTube も良いけど、CDやレコードを探して聴いて欲しいってことなんですよ」

―ジャケット眺めつつ、高音質で聴けみたいな?

たくみ「それもありますね。あとネットを使えば、聴くにしろ、買うにしろ、すごく簡単じゃないですか?それに比べて、レコード屋とかCD ショップで目当ての音源を見つけるのは難しい。でも『探し出す楽しさ』ってのもあると思うんです。どうしようもないCDが投げ売りされてるワゴンで、探していたヒップホップの音源に出会うとメチャメチャ上がりますよ。知らなかった音源との出会いだってある。しかもリサイクルショップって、CDやレコードの価値を知らない人が値段をつけてることが多いので、ありえない安値だったりするんですよ」

ーディグの快感を覚えて欲しい、と。

たくみ「日本のヒップホップ・シーンが今みたいな感じになっている理由みたいなところを掘り返して欲しいですね。特に2000年代半ばあたりの音源は聴いてないという方も多いと思うので」

ーゼロ年代の後半から10年代の前半って、ジャパニーズ・ヒップホップのセールスがイマイチだった時代ですからね。

たくみ「僕の得意分野はそこらへんなんですよ。I-DeAさんにESSENCIALの話をしたら『なんで知ってるの?』って驚かれたんですが、僕からしたら知っていて当然の常識なんです。世の中的には『冬の時代』だったかも知れないですけど、僕からしたら『真夏』だったんで (笑)」

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