ZORNの一番の魅力 カミナリも永野さんも「飛距離」重視

茨城弁による掛け合いと激しい「どつき」で注目を集める人気漫才コンビ「カミナリ」の石田たくみ氏は、お笑い界を代表するヒップホップ・ファンとして知られている。本連載は、そんなたくみ氏が愛して止まない「日本のヒップホップ」について喋り倒すインタビュー企画である。今回のテーマは、2020年も大いに注目を集めた東京・新小岩をレペゼンするラッパー「ZORN」について。

バイト時代に出会ったZORNの『LIFE GOES ON』

―ZORNのファンだとお聞きました。いつ頃からでしょうか?

たくみ「存在を知ったのは“ZONE THE DARKNESS”として、積極的にMCバトルに出ている時期でしたね」

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―当時の印象は?

たくみ「正直言ってしまうと『ポエムっぽいな』くらい。当時の僕はガンガン言い放っていく系のラップが好きだったんです。それこそニトロ(マイクロフォン・アンダーグラウンド)みたいな。だから“ZONE THE DARKNESS”時代の曲でよく聴いてたのって、2010年に出た『奮エテ眠レ』くらいなんですよ」

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ー降神の登場以降、ポエトリー・リ−ディングっぽいフロウのラッパーが増えましたよね。

たくみ「そうそう。だから志人(※)さんの曲もリアルタイムでは通ってないんです。そんな感じでZONE THE DARKNESSはヘビーローテーションで聴くところまで行かなかった。人に薦められても『まあ名前くらいは知ってる。何曲かは聴いた』みたいな感じでした」

※降神(おりがみ):ラッパーの志人、なのるなもない、トラックメーカーの onimasを中心としたヒップホップユニット。
※志人(しびっと):降神のラッパー。BBOYPARK 2002のMC BATTLE-において凄まじいスキルを見せつけて注目を集める。現在は詩人、作家、作詩家、木こりとしても活動中。

ーあんまり引っかからなかったと たくみ「それから数年が経った頃、僕は結婚して子供が出来るんです。といっても芸人の仕事だけで食えるようになったわけではなく、バイトを続けている状態でした。そんな時期に名前を聞いたことがない『ZORN』というアーティストの『LIFE GOES ON』って曲と出会うんです。たしか2014年だったかな。『誰だよ?』と思いながら聴いてみたんですが、これがメチャメチャ良かったんです」

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ーカミナリが2016年のM−1決勝に進出してブレイクする直前の話ですね。どのへんにフィールしました?

たくみ「まずトラックが良い。ラップに関しては、たまに良い感じの硬い韻とかもありつつ、かと言って踏みまくってるわけでもない。どちらかというとシンプルに思いを伝えている感じの曲なんですが、とにかく聴き心地が良かったんです。『誰だろう?』と思って調べてみたら、あのZONE THE DARKNESSなんですよね。『名前もフロウも変わって(※)別人じゃん!』って驚きました。しかも僕と同い年で、結婚して、お子さんがいるらしい」

※名前もフロウも変わって: 2014年、般若が主宰するレーベル「昭和レコード」入りしたZONE THE DARKNESSは「ZORN」に改名している。

―自分と共通点が多いじゃないか!と

たくみ「そうそう!『MY LIFE』って曲を聴いてると『お父さんとして、家族の大黒柱として、ラップでやってくぞ』という決意のようなものが感じられるんです。やっぱり胸に来るものがありましたよ。当時の僕も『これからは芸人一本でやってくぞ』と意気込んでいた時期だったので。思い切り自分を重ねて聴いていました」

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家庭とサグライフ、愛とエロ…韻の『飛距離』の話

ーいわゆる「洗濯物干すのもヒップホップ」的なリリックに象徴される昭和レコード期のZORNさんが好きだと思うのですが、現在のスタイルはどうですか?

たくみ「もちろん好きですけど、以前に比べるとアグレッシブな姿勢を見せてますよね。あれって世の中から注目されるようになったからだと思うんですよ」

―と、いいますと?

たくみ「武道館(※)でライブをやるくらい人気が出てきたわけじゃないですか?。知名度が高くなれば、より多くの人に見られるようになりますよね?新しく自分を知った人たちにスキルを見せつけて、実力を『分からせてる』感じなのかな、と」

※武道館:ZORNは、日本武道館でワンマンライブ「My Life at 日本武道館」を2021年1月24日(日)に開催。

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ーたしかにスキルを「見せつける」感じの曲が多いかもです!

たくみ「ただ『独特の言い回し』は変わらないですよね。僕にとってZORNさんの一番の魅力ってそこなんですよ」

―「独特の言い回し」とは?

たくみ「あの人って子供がいるじゃないですか?だから育児に関係があるワードをヴァースに入れるんです。たとえばAKLOさんとの『RGTO(Remix)feat.ZORN』では“バイバイキン バースがアンパンチ”とか『Walk This Way feat.AKLO』では“まだ地元で押すベビーカー”とか。「NORIKIYOさんとの『Hey Money(Remix)』 では“明日保育参観 帰り道にぱぱす(※)で買って帰るパンパース”なんてラップしてる。普通のラッパーだったらありえないですよね」

※ぱぱす:どらっぐぱぱす。東京都内に約140店舗を展開する薬局チェーン。

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―そんな生活感丸出しのラップは聴きたくないって思う人もいるでしょうね

たくみ「でもZORNさんがラップすると“おふざけ”みたいにならない。それは言葉をカッコよく響かせるために工夫しているからなんですよ。例えば生活感のある言葉とストリートっぽい言葉で韻を踏んだり」

―イメージがかけ離れた言葉で韻を踏むことで、生活感とストリートのどちらかに偏りすぎないようバランスをとっているってことなんですかね

たくみ「Creepy Nutsが『韻の飛距離』って呼んでるやつです。わかりやすく言っちゃえば『ギャップ』のことなんですけど。『Have A Good Time』では『一軒もねぇ成城石井 土手で童貞捨てたHomie 正常位し』ってラップしてますが、そのあとは『表参道のオープンカフェよりも 嫁さんとの醤油ラーメン』と(笑)。ZORNさんは、そういうところも本当にすごいと思います」

―曲の中に、街の風景、家族のイイ話、ストリートの危ない話、下ネタが詰まっているし、表現として意外性もある…

たくみ「だからコッチは気持ちを振り回されるところもあるんです(笑)。でも、そこは人間ですから。色んな面があって、そこが良いじゃないかとも思わせてくれるのが良いんですよ!」

―人間としての奥行きを感じると。

たくみ「ポエムっぽかった『ZONE THE DARKNESS』時代があって、肩の力が抜けていた昭和レコード時代があって、今の感じがあって、今のZORNさんがいるんだと思ってます。本人に聞いたら『違うよ!』って言われちゃうかもですけど(笑)。でも僕はそう捉えてるんです。」

永野さんもカミナリも『飛距離』重視の芸人なのかも?

ーたくみさん自身は「飛距離」を気にする瞬間ってありますか?

たくみ「分かりやすいところで言うと『場の流れと逆行ったらウケるな』みたいな感覚はあります。例えば、みんながアイドルの子を『可愛いね〜』とヨイショしてたら、厳しく核心を突いていく。あと誰も行かないときは率先して行く。ただそういう気持ちが高まり過ぎて、意味わかんないタイミングで(明石家)さんまさんをひっぱたいてしまったことがありました(苦笑)

ー芸人さんって、そういうメリハリを気にしてそうですよね

たくみ「僕は『どつき』なんで攻撃的に尖る役割です。でも、ずっとそれだと飽きられちゃうじゃないですか?だからたまには優しい一面を見せたりしてますね。まなぶがボケても、軽く叩いて『〜だっぺよ』くらいで済ませる。特にロケ中とかはそんな感じですね」

―気持ちを抑えるようになった?

たくみ「と言うより、そのくらいが本当の自分なんです。だから素の自分を漫才の要素に入れるようになってきているんでしょうね。まあ最終的には思いっきり叩きながら激しく突っ込むんですけど(笑)。素があるから攻撃的な一面が引き立つ、と」

ーそういえば髪型を変えたのも似たような理由だったとか

たくみ「そうそう。と言っても自分で考えたわけじゃなく、あれは先輩芸人である永野さんからのアドバイスなんですけどね」

―どんなアドバイスだったんですか?

たくみ「随分前の話になりますけど、僕は髪型がアフロだったんです。それを見た永野さんに『ガラ悪いやつが、口悪くて、相方をひっぱたくって普通だから』って言われたんです」

―永野さんは、カミナリの所属事務所「グレープカンパニー」の裏番長的な存在らしいですよね

たくみ「永野さんには本当に良いアドバイスを沢山いただいてます。『茨城訛りの奴が、おじいちゃんおばあちゃんの話をしてほっこりさせた後に、いきなり相方を引っ叩くのは面白い』とか。考えてみると『飛距離』の話が多いのかも(笑)。だから永野さんも僕らも『飛距離』重視の芸人なのかも知れないですね。って完全に後付けですけど(笑)」

インタビュー・構成:吉田大

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