変わることのないPUNPEE、帰ってきたGEEK、昔の姿を見せてくれたANARCHY

茨城弁による掛け合いと激しい「どつき」で注目を集める人気漫才コンビ「カミナリ」の石田たくみ氏は、お笑い界を代表するヒップホップ・ファンとしても知られている。そんなたくみ氏が愛して止まない日本のヒップホップについて喋り倒す連載である。2020年を締めくくる第2回のテーマは「2020年によく聴いたアーティスト」。

2020年によく聴いた音源その1 PUNPEE「The Sofakingdom」

―2020年は、どんなアーティストの楽曲を聴いてましたか?

たくみ「最初はPUNPEE『The Sofakingdom』です。タイトルからも分かるように、デカい音のベースやドラムが鳴り響くハードコアなヒップホップではなく、いかにもベッドルームで作ってそうなインドアな感じのEPです。で、それが良い。よく聴いたってところでいうとKREVAをフィーチャリングした「夢追人」ですね。まず言っときたいのが、大御所中の大御所になった今も年下ラッパーのフィーチャリングに入るKREVAはカッコいいってことですね。そして、この曲はPVも良い。ストーリーのある映画みたいな作りになっているんです。

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PUNPEE – 夢追人 feat. KREVA

―PUNPEEの息子と思われる黒縁メガネの少年が、父の輝かしい過去を知るみたいなストーリーですよね。

たくみ「未来の話なんですよね。PUNPEEは腹の出た中年、まあ変なおじさんみたいになってて。でも昔は良い時代もあって、KREVAとも共演してたみたいな」

―PUNPEEさんのラップで好きなところは?

たくみ「やっぱりフローですね。あと声の重ね方が独特なんですよ。 普通のラッパーだと小節の終わりで声を重ねると思うんですが、PUNPEEさんは小節をまたいで声を重ねることがあるんですよね。それが絶妙に気持ち良い。『Wonder Wall』でもやっているんでチェックしてほしいです」

―前回は、どちらかというとハードコアなラッパーの名前がたくさん挙がってたので、PUNPEEが好きなのはちょっと意外です。

たくみ「元々は弟の5lackさんのことが好きで。でも今はあの兄弟が好きなんです。このEPでも『Wonder Wall』で共演しています。あの兄弟の良いところって、タイプは全然違うけど、ちゃんとリスペクトし合っているところだと思うんですよ。その感じがよく出ているのが『Wonder Wall』です」

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PUNPEE – Wonder Wall feat. 5lack

―兄弟愛的な曲ですよね。たくみさんもお兄さんと仲が良かったようですね。

たくみ「僕はバスケをやっていて、その後にヒップホップが好きになったのですが、どちらも4つ違いの兄ちゃんからの影響です。大学進学で東京に出てきた後は一緒に住んでいました。その頃、兄ちゃんとラップを録音して、実はYouTube にアップしたりもしてました。既に全部削除しましたけどね(笑)」

―聴きたかったような気もしますが…。しかしお兄さんから相当影響を受けているんですね

たくみ「兄ちゃんは、どこで知ったのか分からないんですが、やたら日本のヒップホップに詳しかったんですよ。一緒に住んでいた頃は、茨城とか JBL 以外にも、全国各地にカッコ良いラッパーがいることを教えてもらいましたね。ICE BAHN、餓鬼レンジャー、THA BLUE HERBとか。で、その時にPUNPEEさんのことも教えてもらったんです。でも最初は良いと思えなかったんですよね」

―なにか理由があったんでしょうか?

たくみ「単純に見た目ですね(笑)。当時で言うと、KENTHE390さんとPUNPEEさんだけは、何となくファッションが違ってて。で、特にPUNPEEさんは、眼鏡をかけてるし、髪型も普通だし、すごく変なセーター着てて(笑)。とにかく今以上にヒップホップっぽくなかったんですよ。ニトロ好きだった僕からすると『絶対違う』って感じでした(笑)」

―たしかにUMBに初出場した時などは、本当にナードなルックスでしたよね。

たくみ「でも兄ちゃんは『PUNPEEはやる男だ』って言い張るんですよ。その言葉を信じて、というわけではないんですが、頑張って聴いているうちに、だんだん良さが分かってきた。

―どんなところが魅力的だと思いますか?

たくみ「どんな時間でも、どんな場所でも、気持ち良く聴けるのが凄いですよね。朝起きて、コーヒーを飲みながらタバコを吸ってる時でも、 昼下がりでも夕方でも、もちろん夜でも。昔からトラックもラップもルックスも、典型的なヒップホップは違っていて、あくまで自分のスタイルを貫いてきたからこそ、今があるんだろうと思ってます」

―個性的で、なおかつ普遍的というか

たくみ「PUNPEEさんって、僕にとってニューバランスの『1300』みたいな人なんですよ。僕も若い頃は『こんな野暮ったい靴より、ジョーダンとかフォースワンの方がヒップホップっぽくて良いだろ』って思っていましたけど、大人になった今となっては『すごく良いな』と感じる。PUNPEEさんにしろ、ニューバランスの『1300』にしろ、理解できなかったのは、僕が子供だったからなんだろうと思います」

2020年によく聴いた音源その2 GEEK『LIFESIZE III』

GEEK – 居間 [Official Music Video]

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―大人だからこそ良さを感じることが出来るラップってありますよね

たくみ「大人のラップで言うと、昔から好きだったGEEK(※)が12年ぶりに出したニューアルバム『LIFESIZE III』。本当に『待ってました』って感じで。内容としても、大人になったGEEKの思いが伝わってくる作品でした」

※GEEK:ジーク。OKI、SEI-ONE、DJ EDOからなる3人組ヒップホップ・グループ。

たくみ「『HEY』という曲があるんですけど、SEI-ONEさんの余裕を感じさせるラップがいいんですよね。言葉を詰め込んでないと言うか。ラップに隙間があるんですよ」

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GEEK – hey!! [Official Lyrics Video]

たくみ「決められた小節の中に沢山言葉を詰め込んだら、そりゃ上手く聴こえるじゃないですか?たとえば僕がこのビートでラップをやるとしたら、ギリギリまで言葉を詰め込むはずです。でもSEI-ONEさんみたいに、少ない言葉でインパクトを残すのが、本当の『巧さ』なんじゃないかなと思うんです。余裕を感じさせる横綱相撲というか。『引き算』ですかね」

―GEEKと出会ったきっかけは?

たくみ「僕はSEEDAさんをきっかけに、プロデューサーのI-DeAさんが手がけた作品を聴くようになって、そこから。ベタですけど、2ndアルバムに収録されている『Pipe dream』という曲が物凄く印象に残っています」

GEEK / Pipe dream

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たくみ「この曲を聴いていた頃、僕とまなぶは、本当にちゃらんぽらんな大学生でした。周りに『将来芸人になる』と言いふらしてはいるけど、ネタを作るわけでもない。僕なんか教員免許までとっていましたから。

―手堅い選択肢も確保していた、と。

たくみ「なんとなく毎日を過ごしているうちに、いよいよ就職するか芸人になるかを決めなきゃいけない分岐点がやって来るんです。『将来って言っていた時期は もう目の前さ』というリリックを聴いて、焦ったのを覚えています」

―リリックの内容と人生が思い切りシンクロしてしまったんですね。

たくみ「OKIさんのヴァースは『俺には夢がある それが10代の言い訳だった』から始まって『俺には夢がある それが現在の言い訳なんだ』って終わる。結局、夢は叶っていなくて、現在進行系で言い訳が続いているんです」

―10代のモラトリアム期間が終わって、働きながらラップするようになって…

たくみ「それでも夢があるからラップを続けている、と。すごく食らってしまって『とにかく芸人をちゃんとやろう』と思いましたね。それで大学卒業と同時にグレープカンパニーに所属することにしたんです」

―GEEKはジャパニーズ・ヒップホップのセールスが、あまり良くない時期にデビューしてしまったのが不運でしたよね。ようやく活動を再開した後にはSEI-ONEさんに脳腫瘍が見つかったり…。

たくみ「そんな人達が音源をリリースしてくれたわけですから、やっぱりテンションが上がりますよね。このアルバムに関しては曲も良いと思うんですけど、それ以上にヒップホップ・シーンに戻ってきてくれたという事実が最高だなって思いました」

2020年によく聴いた音源 その3  ANARCHY & BADSAIKUSH『GOLD DISC』

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ANGELA feat. 舐達麻 / ANARCHY & BADSAIKUSH (prod. GREEN ASSASSIN DOLLAR)

たくみ「GEEKが活躍していた2000年代後半って、ジャパニーズ・ヒップホップの『冬の時代』だって言われがちなんですよ。でも僕からしたら一番熱い時代なんです。ということで、3枚目はANARCHY & BADSAIKUSHのEP『GOLD DISC』です。

―そのココロは?

たくみ「『ヒップホップが一番熱いぐらいの時代』のANARCHYさんが戻ってきてる感じの曲が収録されてるんですよ。このEPのトラックって、舐達麻のトラックを手がけているGREENASSASSINDOLLERさんが担当してるんですよ。だから舐達麻の世界にANARCHYさんが参加している感じがあるんですよね。」

―確かに。

たくみ「それはそれでカッコいいんですけどね。ただ1曲だけ印象が違ってる曲があって、それがDJ Hazime さんがスクラッチを担当している「Still」なんです。自分が一番熱心にヒップホップを聞いていた2010年前後のANARCHYさんが戻ってきてる感じの曲なんですよ」

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ANARCHY & BADSAIKUSH – STILL (scratches by DJ HAZIME)

―確かにギラギラしてますよね。

たくみ「そうなんですよ!『うわ!あの頃のANARCHYさんだ!』って(笑)。

―ANARCHYは昔から好きでした?

たくみ「ですね。ずっと曲を作り続けている人だし、変化も続けている人でもあると思います。もちろん最近の曲も全然嫌いではないです。僕自身ハードコアな曲だけじゃなく、メロウなトラックも好むようになってきたので。ちょっと前の曲ですけど『Loyality』なんかも好きで。ただANARCHYさんを好きになった、一番最初の感覚を思い出させてくれたのが『Still』なのかな、と。で、こういうトラックでバダサイさんがラップするのも聴いたことがなかったのですが、これがまたバッチリで。今年はなんだかんだで舐達麻の年でしたよね」

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ANARCHY – LOYALTY (Pro. STATIK SELEKTAH)

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BUDS MONTAGE / 舐達麻(prod.GREEN ASSASSIN DOLLAR)

―では最後に総括をお願いします!

たくみ「2020年に聴いてた音源を振り返ってみたんですが、その中で印象に残ったのが、変わることのないPUNPEEさん、帰ってきたGEEK、昔の姿を見せてくれたANARCHYさんの3組。我ながら本当にバラバラですよね。僕はヒップホップそのものが好きなので『このスタイルが好きだ』みたいなのがないのかも(笑)」

インタビュー・構成:吉田大

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