NIPPS率いるTETRAD THE GANG OF FOURを聴いて、お笑いを始めた頃を思い出す (カミナリたくみ)

人気漫才コンビ「カミナリ」の石田たくみ氏のインタビュー連載のテーマは「TETRAD THE GANG OF FOUR(テトラド・​ザ・ギャング・オブ・フォー)とTHE SEXORCIST(ザ・セクソシスト)」。
1996年にシングル『人間発電所』でデビューしたHIPHOPグループ・BUDDHA BRANDは、わずか数年の間に数多くの名盤を発表し、2000年前後からメンバーのソロ活動が目立ち始める。そんな中、グループ随一の個性派ラッパー・NIPPS(ニップス)が気鋭の若手アーティストと結成したのが「TETRAD THE GANG OF FOUR(テトラド・​ザ・ギャング・オブ・フォー)とTHE SEXORCIST(ザ・セクソシスト)」である。

「2007年ごろって、HIPHOPの最新情報を手に入れ易くなってきた時期だった」

たくみ:今回のテーマは、テトラド〜(超嬉しそうにハンドサインを出す)。ハンドサイン間違ってたらヤバいすね(笑)

たくみ:ということでTETRAD THE GANG OF FOUR(以下「テトラド」)とTHE SEXORCISTでございます!どちらもBUDDHA BRAND(以下「ブッダ」)のラッパー・NIPPSさんを中心に結成されたグループですね。僕は基本的に後追いでHIPHOPを聴くことが多いのですが、テトラドとセクソシストはリアルタイムで体験できたこともあり、思い入れが深いんです。

―ブッダを追いかけているうちにテトラドを知った感じですか?

たくみ:ですね。テトラドが結成された2007年ごろって、HIPHOPの最新情報が手に入れ易くなってきた時期でした。もちろん世の中にネットが広まったからなんですけど、中でも「mixi」(※)の存在が大きかった。HIPHOP関連のコミュニティに参加してると、色んなアーティストの音源リリースやライブの告知が流れてくるんです。毎日のように最新の情報をチェックして、シーンの動きを追うのもHIPHOPの醍醐味ですよね。そういう楽しさを知った時期でもありました。

※mixi:当時流行していたSNS。同じ趣味や関心ごとを持つユーザーが集まる「コミュニティ」と呼ばれる機能があった。

―いわゆる「HIPHOPヘッズ」になってきた時期だったんですね。

たくみ:で、どこのコミュニティだったか忘れちゃったけど、あのNIPPSさんが年下のラッパーと新グループを結成して、グループ名をタイトルにしたアルバムも出るらしい。「これは速攻で買わなきゃ」ってことで、発売日(※2008年12月01日)にブッダ好きの仲間たちと車を飛ばして、タワレコに行ったんです。

―ファースト・インプレッションを教えてください

たくみ:まずジャケットに喰らいました。ド真ん中に全然知らないサングラスの男が写ってるんですよ。これが凄いインパクトで。「誰だよ…」って思いますよね(笑)

たくみ:早い話が、若手3人を引き立て役だと思ってたんですよ。ジャケの真ん中には主役であるNIPPSさんがいるべきだろ、と。けど車に戻って曲を聴いてみたら、この3人のラップが超ヤバくて。「なるほどNIPPSさんが一緒にやろうと思うわけだ」って納得しました。

「テトラドの4人には強烈な個性があって、でも不思議とバランスが取れている」

―3人の印象を聞かせてください。

たくみ: まず「ジャケの真ん中に写っていた謎のサングラス男」ことB.D.さんは、僕の中で「ド真ん中のルックスを持った人」。一見して「いかにも渋いラップをしそうなラッパー」で、実際渋いラップをする。言ったらアニメの主人公なみにキャラが完成しているんですよね(笑)それと声にも特徴がありますよね。

―ちょっと鼻にかかった、でもドライな感じですよね。

たくみ: GORE-TEXさんの系譜。あの声質は好きですね。で、VIKNさんはラップ含めて全てがクール。そして優しい。番組でお話した時も格好良かったです。

―北千住でコールドプレスジュースが美味しいカフェ「JUICE BAR ROCKET」を経営されてますよね。テトラドやSCARSがライブをやったり、イベントスペースとしての機能もあって。

たくみ:そうそう。残念ながら行ったことはないんですけど。そしてSPERBさんは、フロウがちょっと可愛くて、でもラッパーとしての印象は格好良い。体型が近いこともあって、もしも3〜4MCのグループでラップするならSPERBさんポジションを狙いたい(笑)そんな感じでテトラドの4人には強烈な個性がありつつ、でも不思議とバランスが取れているという印象です。グループとしてのブッダと似た魅力があるように思います。

「あの唸り声を聴いた瞬間にアルバムが名作であることを確信しましたよ」

―アルバム『TETRAD THE GANG OF FOUR』で、お気に入りの楽曲を教えてください。

たくみ:「God Speed」です。CDを買った帰り道に、早速カーステレオで聴いたんですけど、1曲目は壮大な感じのインストで2曲目の「God Speed」からラップが入ってくるんです。この曲のイントロに「ウウウウァ…」っていう唸り声ともうめき声ともつかない妙〜な声が入ってるんです。聴いた瞬間、その場にいた全員が「来たあああ!!!」みたいな感じで盛り上がって(笑)

―ハートを撃ち抜かれた感じですね

たくみ:それです(笑)あの不穏な声一発でアルバムが名作であることを確信しましたよ。で、NIPPSさんからヴァースが始まるんですけど、歌い出しが「病んでるブッダカミネッチャサイコイチキラー」って。ブッダの名曲「人間発電所」のセルフ・オマージュなんですよ。車にはブッダの熱狂的なファンしか乗ってないもんだから、みんな凄いテンションで首を振り出しちゃって(笑)。けど3曲目の「GESTICULATION」は、BPM遅めで不穏な感じの曲。テンションが上がりきった直後ですからスカされた感じでしたね。かと思うと次の「DISCO」はタイトルの通りの華やかなスキット。ここで再度テンションが上がる感じで。なんていうか…。

―緩急が激しいというか。

たくみ:そう!先の展開がまったく読めないんです。曲順の組み方でリスナーの脳に揺さぶりをかけてくるというか。聴いてるうちにテトラドの病んだ世界に飲み込まれて、頭がボーッとして視界が歪んでくる(笑)。だから最初は「なんか不気味なアルバムだな」と思ったんですが、2周3周と聴いていくとラップの上手さやトラックの良さが分かって来る。一筋縄ではいかないけど、繰り返し聴きたくなる名盤だと思ってます。

「NIPPSさんは、あらゆる面においてオシャレなんですよ」

―2008〜9年くらいのテトラド周辺って、かなり音源を出してましたよね?

たくみ:特に NIPPSさんの動きが活発でしたよね。とにかく情報を追いかけるのが楽しくて仕方なかった。音源やライブだけじゃなくYouTubeに謎の動画をアップしたり。今で言うVLOGみたいな感じなんですけど、NIPPSさんが寝ているだけ、奇声をあげてるだけとか。もう意味が分からなくてヤベえな、と(笑)今となっては大半の動画は消されちゃってて見れないんですけどね。
あと深夜番組のテトラド特集に出た時のNIPPSさんもヤバかった。まずインタビュアーの話を全然聞いていない。もちろん受け答えは超適当で言葉のチョイスが独特過ぎる(笑)。一連の動画含めて、ブッダやテトラドが言う「ILL(イル)」の概念を理解出来た気がしました。まなぶと2人で思い切り影響を受けて、よく真似してましたね。

YouTube

―他にはどんな音源が出てたんでしょうか?

たくみ:「TETRAD THE GANG OF FOUR」名義で言うと、2010年に『SPY GAME』って音源が出てるんですが、その前にNIPPSさんとBDさんが「THE SEXORCIST」名義で『AWESOME FOURSOME』(2009年02月12日リリース)ってMIX CDを出してたはず。
その後すぐにTHE SEXORCISTで『THE RUSH』(2009年10月05日リリース)が出たんで、それも速攻で買いました。その次が今日持ってきた『BLACK RAIN』(2009年12月02日リリース)かな。ラップやビートもさることながら、とにかくジャケが格好良いんですよね。

たくみ: NIPPSさんって目線が常にオシャレなんです。それはファッション、音源、アートワーク含めて全てにおいて。『BLACK RAIN』のジャケットにしても、オレンジがかった黄色と黒の配色が格好良くて。ついつい影響されてタバコをアメスピの黄色に変えましたよ。微妙に色が違うじゃねえかって話なんですけど(笑)とはいえ『BLACK RAIN』と出会うまで黄色を格好良いと思ったことなんて一度もなかったですからね。

―視野を広げてくれたんですね

たくみ:「視野を広げてくれた」といえば、このアルバムには「1300」って曲が入ってるんですよ。ニューバランスの「M1300」というスニーカーについて歌った曲なんですよね。それまでは「ラルフ・ローレンが愛用してた高っけえスニーカー」って印象で「HipHopじゃねえだろ」って思ってました。けどこの曲をきっかけに「アリなんだな」って感じて履くようになりましたね。今も好きなスニーカーの1つです。

―テトラドって皆さんオシャレですよね。NIPPSさんは「SONNY’S SHACK」というオリジナルブランドもやっていますね。

たくみ: 洋服屋さんで言うとNIPPSさんがシスコ坂でやってた「DUEL」にも通っていました。SPERBさんがいたりして。お店のオリジナルブランドである<NUTS AND BONES>とかメチャメチャ買ってました。間違いなくHIPHOPだったし、当時流行っていた「B系」ブランドより買いやすい値段でもあった。デザインも良いし、アンダーグラウンドな感じもしたし、ブランド名も格好良かった。「B-BOYなら買うしかないだろ」って感じでしたよ。 あとB.D.さんが「DUEL」の近くにあるHIPHOPセレクトショップ「GROW AROUND」で働いてらっしゃったので、買いもしないのに行ってましたね。憧れのB.D.さんを見に(笑)たま〜に一番安いチャンピオンの無地Tを買ったりはするんですけどね。基本的には迷惑な客(苦笑)

お笑いを始めた頃の気持ちを再確認させてくれるTETRAD THE GANG OF FOUR

たくみ:当時の僕とまなぶって「自分たちは日本で一番面白い」って本気で思ってたんです。だから本当に面白いと信じることだけをやって、センスを分かってくれる人、分かろうとしてくれる人にだけ追いかけてもらえれば良いやって。NIPPSさんにしたって「分からない」部分が魅力的だったりするじゃないですか?

―分からない部分を理解するために頑張るのって楽しいですよね。

たくみ:だから僕らの「分からなさ」だって魅力になるはずって思ってたんです。でも芸人として活動していく中で、お笑いをやっていくのならNIPPSさんと同じ態度を貫くのは不可能だって気付いたんです。いや貫くこと自体は出来るんでしょうけど…。

―お笑い一本で生活していくのは難しそうですね。

たくみ:同時に「自分たちは日本で一番面白い」って確信も打ち砕かれていくわけです。芸能界には誰でも笑わせてしまう化け物みたいな人がいますから。それこそ明石家さんまさんとかね(笑)ああいう人達を目の当たりにして「マジで凄えな。この人達みたいに沢山の人を笑わせたい」と思ったんです。で、そこを目指すなら自分のやりたいことをやるだけじゃ足りない。

―ある意味での挫折を体験して謙虚になった、と。

たくみ:謙虚になるのって良いことじゃないですか?世間ではそう言われてるし、僕自身もそう思ったんですよ。ところが僕らのマネージャーは「最近牙が抜けたんじゃないですか?」とか言ってくるんですよね(笑)最初は「コノヤロ〜」と思ったんですけど、考えてみたら謙虚になるのと守りに入るのでは全然違う。やっぱり攻めるところは攻めないと駄目なんです。バランスが重要なんですよね。だから昔のギラギラした気分を思い出した方が良いなってタイミングには、テトラドのCDを聴いて、お笑いを始めた頃のギラギラした気持ちを再確認するようにしています。

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