神戸のラッパー・小林勝行が教えてくれた 「自分を追い込んでこそ生まれるもの」 (カミナリたくみ)

人気漫才コンビ「カミナリ」の石田たくみ氏のインタビュー連載○回目のテーマは、2021年公開のドキュメンタリー映画『寛解の連続』が話題となったラッパー「小林勝行(こばやしかつゆき)」。
2000年代初頭、韻踏合組合、420FAMILY周辺を核として盛り上がった関西HIPHOPシーンだったが、ほどなくして日本のHIP HOP全体が「冬の時代」と呼ばれる売上低迷期に突入。そんな時期に「まるで泥から芽を出す蓮の花」のごとく、神戸の裏通りで才能を開花させたラッパーが今回取り上げる小林勝行だ。

DJ NAPEY『蓮の花』で出会った謎のラッパー「神戸薔薇尻(コウベバラケツ)」

たくみ:小林勝行さんを好きになったのは、韻踏合組合とも関係が深かった関西のトラックメーカーDJ NAPEYさんのアルバム『FIRST CALL』(2006)がきっかけ。音源の存在を教えてくれたのは、僕らの単独ライブ<発電所>のタイトル字を書いてくれた大親友「リスキー」でした。今は映像ディレクターとして、RUEEDはじめ色んなアーティストのMV撮ってます。コイツが中々のHIPHOP好きでして。

―たくみさんが一緒にラップをやっていた方ですよね

たくみ:そうそう。そのリスキーがドライブしている時に流してくれたのが『FIRST CALL』。この作品って、あくまでDJ NAPEYさんのアルバムなんだけど、フィーチャリングに関西のカッコいいラッパーが沢山参加しているんです。

―関西のアンダーグラウンドシーンで活躍していたラッパーのコンピ的な側面もありましたよね

たくみ:ですね。たとえば茂千代さんの「わかれうた」をはじめ、凄く良い曲が多い。その中でも一番印象に残ったのが、当時「神戸薔薇尻(コウベバラケツ※)」と名乗っていた小林勝行さんをフィーチャリングに迎えた「蓮の花」でした。

※「神戸薔薇尻(コウベバラケツ※)」:小林勝行が所属していたグループ。「ばらけつ」は神戸のスラングで「不良少年」を意味する。

―曲のファースト・インプレッションはどうでしたか?

たくみ:まずイントロでSmif-N-Wessunの「Wrekonize」と同ネタ(※Grover Washington Jr.とBill Withersの「Just the Two of Us」をサンプリング)じゃんと。 オシャレだなと思った瞬間、真逆というか異常に癖が強いラップが始まって。けど、めちゃめちゃカッコイイんですよね。気になってジャケット見たら「神戸薔薇尻」。「ば、ばらじり?読めねえ…」ってところから始まりましたね(笑)

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※Smif-N-Wessun:90年代から常に第一線で活躍を続けるテック(Tek)とスティール(Steel)からなる2MCユニット。NYブルックリンを象徴するHIPHOPクルー「Boot Camp Clik」所属。

―自分の過去を振り返りつつ、地元でくすぶっている状況を痛々しいほどにリアルにラップしてますよね。初期の舐達麻にも通じるロードサイド・ラップ感があります。どんなところが印象に残っていますか?

たくみ:とにかくラップですね。なんというか言葉が体に無理やり入ってくる感覚があったんです。僕には馴染みのないゴリゴリの関西弁なんですが、漫才師が使うようなベタベタな感じではなく、おそらく普段使っている言葉。でも軽い訛りなんてもんではない。かといって標準語に合わせようとして訛りを薄めてる感覚も一切ない。自然なんですよね。TOKONA-Xさんに通じるところがあるなと思いました。

―ストリート神戸弁みたいな感じですかね。亡くなったラッパーのECDさんも指摘していましたが、関西弁って、いわゆる「標準語」よりも抑揚がある。だから独特のフロウが生まれ易いんですよね。

たくみ:けどあれって実は難しくて、方言が話せる人なら誰でも出来るというわけではない。僕自身、茨城の方言を使ってラップをしろって言われても出来ないです。そりゃ「だっぺ」くらいは言えますけど、無意識にラップらしくしようとして「置き」に行ってしまうんですよね。「DAPPEEE(ダッペ〜)!」みたいな(笑)。でも小林勝行さんはイントネーションを変えることなく、置きに行くこともなく、普段と同じ自然な言い回しでラップしていた。まあ少なくとも僕にはそう聴こえた。こりゃ凄いわって思いました。

なんとなく買ってみた1stアルバムで名曲「108 bars」に衝撃を受ける

―翌2007年の小林勝行さんは、主にDJの音源への客演で名曲を連発していました。中でも、SEEDA & DJ ISSOのコンピレーションアルバム『CONCLETE GREEN』収録の「絶対行ける」は相当話題になっていました。

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たくみ:噂は耳にしていたんですが、実は聴いてなかったんですよね。なぜかというと「蓮の花」以外の曲を避けてた。他の曲を聴いて残念な気持ちになるのが嫌だったんです。そのくらい「蓮の花」は思い入れが深い曲でした。

―「奇跡的に生まれた一曲」みたいに捉えていたんですね

たくみ:本当に勝手な思い込みですよね(笑)。で、ようやく2011年に元いたグループ名を冠したアルバム『神戸薔薇尻』が出たんですが、この音源に関しても正直言って「なんとなく買ってみた」くらいの感覚でした。ところがこのアルバムの1曲目が、あの「108 Bars」だったんです。

―クラシック曲ですよね。アルバムのド頭からブッ飛ばされた、と。

たくみ:本当にそんな感じで、衝撃としては「蓮の花」以上でしたね。まずタイトルからも分かるように108小節ある。要するに曲がメチャメチャ長い。なのにリリックの内容が最初から最後までDOPE過ぎるから、聴いていてメチャメチャ体力を奪われる(苦笑)。「思い込みで過小評価して本当にスミマセン!」って反省しましたよ。

―個人的なことを、かなり具体的に歌ってますよね。関西の裏社会用語であったり、ストリートワードも数多く出てきます。

たくみ:正直言って、最初に聴いた時は理解できない表現も結構多かったです。それでも不思議と気分だけ伝わってくるんですよね。住む世界の違いや方言みたいな「壁」を余裕で越えて心に踏み込んできた。とにかく言葉から力を感じるラップで最高だなって思いました。

映画『寛解の連続』で垣間見たラッパー小林勝行の光と影

たくみ:「蓮の花」にしろ「108 Bars」にしろ本当に大好きだったので、何度も歌詞カードを見ながらリリックを確認していきました。それでも言葉の深い部分までは把握出来てなかったし、小林勝行というラッパーの人柄もイマイチ見えなかったってのが正直なところ。僕の理解力の問題もあるんでしょうけどね(苦笑)。

―作品も少ないこともあって、謎が多いラッパーでした。

たくみ:そのあたりの疑問を一気に明らかにしてくれたのが、2019年公開のドキュメンタリー映画『寛解の連続』でした。1stアルバム『神戸薔薇尻』から久々にリリースされたアルバム『かっつん』 が完成するまでを追った作品なんですが、ディレクターさんから推薦コメントの依頼をいただいて公開前に見せていただくことが出来たんです。

―どうでしたか?

たくみ: (ちょっと考えて)「こりゃ色んな意味でヤべえな…」と。心を患って精神病棟に入院した体験をラップにしてたんです。一番印象に残ったのは泣きながらリリックを書いてたこと。引くほど自分を追い込んで曲を作ってるんですよね。「大丈夫なのかな」と心配になる半面、これだけストイックに創作と向き合ってるから、僕の体の中に無理やり入ってくるようなラップが出来るんだろうなって。

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―『かっつん』は聴きましたか?

たくみ:あの映画を観たら聴かないわけには行かないですよね。映画を見てから音源という順番も良かったな、と。なぜかというと、このアルバムには普通は耳にしないような医学用語がチョイチョイ入ってたりするので。たとえば映画のタイトルにもなってる曲「寛解の連続」の「寛解」は「治ることはないけどちょっとだけ良くなる」みたいな意味で。

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たくみ:あと「南1病棟、廊下から喫煙所にて」って曲があるんですけど、謎のおじさんとの会話を再現してるんですよね。これだって精神病院に入っていたという背景を知らなければ、なんのこっちゃ分からない。聴きながら言葉の意味を調べたりして、さらに映画の感想も変わりましたね。 アルバムと映画は是非ともセットで味わってほしいです。

―精神医療への理解も深まりそうですね。かなりシリアスな作品だと思うんですが、どんな時に聴いていますか?

たくみ:僕はラップを歌って楽しむタイプなのですが、『かっつん』に収録されてる曲ってリリックがあまりに個人的で。なんていうか本人以外は歌っちゃいけない感じがするんですよね。さらにアルバム自体が一本の映画みたいな感覚なので、聴き始めたら最後まで聴くしかない。良くも悪くもBGMにはならない音楽ですよね。

―受け止めるにしても準備が必要だ、と。

たくみ:心と時間に余裕がある時じゃないと無理。オールで遊ぶのと似ていますね(笑)。ただ小林勝行さん自身はリスナーに元気になって欲しくてラップしてるんだとも思うんですけどね。

―基本的にすごく前向きだし、意外とユーモアがある人だったりもしますよね。

たくみ:そうそう。実はTwitter とかもフォローしてるんですけど、やたら謎の写真が多い(笑)。 例えばレコーディングブースで拳を掲げてる写真。拳だけが写ってるんですよ。光に手を向けている写真が多いんですよね。

―あれって『蓮の花』の「腕を上げ、光り出せコラ/胸を張れ、嫌々でもや」というリリックともリンクしてるのかなと思います

たくみ:僕も「今日も頑張るぞ」みたいな感じなんだろうなと思って見てたんですけど、時々拳がチョキとかパーになるんですよ。「あれ?これってジャンケンなの?」って(笑)こっちが乗るとスカしてくるというか(笑)。どういうつもりなのかは僕にはわからないですけど、実は独特なギャグセンスを持っているのは確かだと思います。話を戻すと、何がすごいって、ほぼ毎日画像をアップしてるんですよ。それって毎日レコーディングしてるって事じゃないですか?

―やる気が半端じゃないですよね

たくみ:作品もそうだし、映画もそうだし、その画像もそうなんですけど、表現に対する姿勢ってところで大いに感じるところがありました。実は最近まで「人を笑わせるネタを考える時に自分を追い込みまくってどうするんだよ」って考えだったんです。でも小林勝行さんの生き様を見て「自分自身を追い込んでこそ生まれるものもあるんだろうな」って思うようになりましたね。

―小林勝行、どんな人におすすめしますか?

たくみ:正直言って、万人受けするタイプの音楽ではないですよね。聴いていて楽しい音楽でもない。もしかしたら落ち込むかも知れない。でも人生に迷ってる人、生きる上での覚悟が欲しいって人には、是非とも聴いてもらいたい。なんていうか自分自身の「活路」を探し出すきっかけになる音楽だと思うので。聴いて、落ち込んで、考えて、答えを見つけ出して欲しいです。

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