ストリートスケートボードのリアルを知る最後の世代が出した答え、池田幸太 #3

30歳は、現役スポーツ選手にとって誰もが岐路となる年齢だ。それは2010年代に日本を代表するスケートボーダーとして世界を舞台に活躍してきた池田幸太も例外ではない。しかし、当の本人は30代を人生の岐路ではなく、むしろスタートだと捉えているようだ。
そこには20代で華やかなキャリアを築いた彼にしかできない壮大なプランが描かれていた。

そこでパート3となる今回は、30歳を迎えた率直な心境と現在の生活、今後の活動について語ってもらった。

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スケートに対する気持ちは全く変わっていない

SNSで反響を呼んだバックサイドフリップでのパイロン越え

ーまずは30歳を迎えた今の率直な気持ちから聞かせてもらえますか?

30歳になってもスケートに対する気持ちは全く変わってないですよ。それに身体の衰えも全くないかな。むしろパワーアップしているようにすら感じますね。実はadidasに在籍してた時期にケガをしてから、初めてちゃんとしたスポーツドクターに診てもらったんですよ。それこそK-1のオフィシャルドクターをやってて、試合後の選手を診るような先生に。

もちろん自分のことも知ってくれてたから、一般の病院だと普通の生活ができる程度までのリハビリしかやらないんですけど、そこにプラスして今まで通りのパフォーマンスができるようなリハビリを教えてもらって実践してたんです。それにここの筋肉が弱いからここをケガしちゃうんだよとか、自分の身体のことも細かく教えてくれたから、筋トレとかストレッチもすごくしっかりできたんですよね。そういうのもあって、逆に今はパワーがついてきちゃったんじゃないかなとすら思ってますね。

何か新しいことをやっていかなきゃならない

ーでも今は時代が違うから、なかなか20代の頃と同じ活動はできないんじゃないですか?

状況がかなり変わりましたからね。最近は昔自分が想像していたのとは全然違う時代になったなと思います。

オリンピック競技に正式採用されてから世の中の流れが変わったのもそうだし、あとは専門誌とかのメディアもなくなっちゃいましたからね。今まで自分が活動していた土俵が全てなくなってしまったから、それが本当に大きなことだったんです。

雑誌もないし、今までのようにビデオを撮ったところで昔のような価値もない。だから何か新しいことをやっていかなきゃならないんだなという壁にぶち当たりました。
でも今はオリンピックだけじゃなくてコロナもあるから、それは自分に限らず皆同じことだと思いますけどね。

ちょうどいい世代にいる

ーそういう環境に変わったことで周りの反応に変化はありましたか?

「オリンピックがあと10年早く開催されてたら出れてたのにね」とかはよく言われますよ。

でも自分はこの年齢で良かったというか、ちょうどいい世代にいるなと思ってるんです。って言うのも雄斗(堀米)とかの世代が抱えてる悩みは、自分が若い頃とは全然種類が違うと思うんですよね。今は一般からの注目もスゴいから、しがらみとかそういうのは、正直な話、今の方が面倒なところが多いんじゃないかと思ってます。

でもオリンピックの注目選手って言われている世代からはちゃんとリスペクトしてもらえてるから、そういう意味では自分が20代に成し遂げてきたことが、少なからず彼らに良い影響を与えることができてたのかなと思いますね。

だからすごく良い30歳だなと思うし、これを機に下の世代のことも気にしていかないとなって思ってますよ。

ー若い頃に比べたら随分と丸くなった感じがしますね。ところで最近の活動はどんな感じなんですか?

もう30歳ですからね(笑)。これだけ偉そうに喋っておいてめちゃくちゃ恥ずかしいし情けないと自分でも思いますが、実は今スケートとは無縁の深夜仕事をしたりしてます。10年ぶりに履歴書を書いてコツコツやってますよ。スケートの方の動きだと、DOBB DEEPって言う戸枝(義明)くんとか純也(三枝)たち湘南クルーと毎週水曜にいろんなストリートスポットに行って撮影してますね。バネちゃん(赤羽賢)がフィルマーをやってくれて、淳之介(米坂)君とか本当にいろんな豪華メンツが集まりますよ。最近だったら慧野巨(池)とか虹々可ちゃん(藤澤)とか若手も呼んで、皆で楽しく滑りながらフッテージを撮ってます。

毎週水曜日に行っている撮影。順調に映像もたまってきているとのこと

正直かなりの葛藤がありました

ーあと最近の活動と言ったらやっぱりYouTubeチャンネルの開設ですよね。池田さんのような本物のキャリアを持ったスケーターが始めたことは、業界的にも大きな意味があったと思います。

ただ、始めるにあたっては正直かなりの葛藤がありましたよ。自分たちカルチャー世代には、YouTube=ダサいじゃないけど、そういうイメージがあるのかなとも思ったし、新たに始めることで今まで築き上げてきた自分のスケーター像が崩れちゃうんじゃないか、価値が下がっちゃうんじゃないかって懸念もありましたね。

そうしたら、案の定貴方にはやってほしくなかったとかバッシングをしてくる人もいましたし。でもカルチャー云々言ってても結局そのままじゃ成長しないし、もったいないなと思ったから、もう新しいこと、やりたいことをどんどんやっていこうって思ったんですよね。あとはやっぱり久々にアルバイトをして色々と感じました。今までプロスケーターと呼ばれてた時代の1トリック数万円、時には5分で数十万円と狂った金銭感覚も取り戻せました。1時間でこれしか稼げないのかって(笑)。

でも仕事自体はやることも決まってるし、めちゃくちゃ楽なんですよね。今までなんでスケボー頑張ってたんだろ? お金ってこんな簡単に手に入るんだって思うくらいに。正直このまま業界からフェードアウトもいいなって思ったけど、月日が経つうちにやっぱり何か足りないんですよね。いざYouTubeをやってみたらみんな見てくれるし、今回のインタビューのお話も頂いて、また眠っていた自信過剰の自分が出てきちゃったんです(笑)

YouTubeチャンネルを開設したことで、最近はこうして自ら撮影する機会も増えた

下の世代が通れる道を作りたい

ーそうやって常に変化し続けていくのはこの世の常ですよね

それにうまくいくと思わなきゃ始めないですからね。自分じゃなきゃできないことっていっぱいあると思うんです。そういう意味では、例えダサくなったとしても自分は下の世代が通れるような道を作っていきたいんですよね。

だいたい皆が思う30代のプロスケーターっていうのは、「スポンサーもなくなってよくわかんない工場とかでバイトするんでしょ!?」みたいなイメージがあると思うんですよ。これに関しては自分も片足突っ込んでますが、それで昔はカッコよかったんだけどな……、みたいな。

若い頃はあれだけカッコイイってもてはやされたのに、おじさんになったら結局単なる世間知らずでしかなくて、そのまま業界どころか一般社会からもフェードアウトしてしまったって人も見てきました。そういう先輩達を見ると可哀想だなと思う反面、申し訳ないけど自分はなりたくないので、新しい挑戦を始めたんですよね。「これだけ貴重な経験をしてる僕らだからこそ何かできるんじゃないか?」って、今のバイトは楽しいし楽だしみんな好きだけど、自分の代わりになれる人がいっぱいいる、誰も代わりになれないものになるって言うのも自分の生きる糧だなって再確認できました。だからこれを機に早くバイトをやめて、また自分の好きなことだけをやっていきたいなって思ってます。

ーそういう絶対に自分を曲げない強い意志は、10代の頃から全く変わってないですね。

自分は岐路に差し掛かっても何も残さず去っていく人達が多いのも、スケート業界が発展していかない1つの原因だと思ってますから。極端な話を言えば、今の10代20代前半の子たちが30歳になった時にどうしようって悩む前に、「とりあえず幸太くんのところに行けばどうにかなるでしょ」くらいの感じにしたいんです。

まあ今はオリンピックもあるし、大金を稼いで一生遊んで暮らせる可能性もある時代になりましたけど、それこそ20代前半で大ケガをしちゃって夢を叶えられたなかった子とかも絶対出てくるから、そういう子たちを不安にさせないような何かを作りたいんですよね。

他のスポーツ選手もそうですけど、スケーターってケガをしたら本当に終わりなので人生のギャンブルなんですよ。目指すのはいいけど、大ケガは無駄でしかないんです。その不安を抱えながらやってくのはもったいないからどうにかしてあげたいんですよね。

自分の考えとか生き方を発信するメディアの1つ

YouTubeは自分の考えや生き方を発信するメディアのひとつと語る

ーそのツールの1つがYouTubeだと。

ですね。言っちゃえばそういう自分の考えとか生き方を発信するメディアの1つなんですよ。雑誌も含めて今までの表現の場がなくなってしまった中、こんなに簡単に始められるんだったら「そりゃやりますよ!」みたいな。

それに10代20代はいろいろなメディアに出させてもらいましたけど、本当に喋りたいことが言えないことも多かったし、そういう面では何でも言える自由さにも魅力を感じたと言うか。俺はマジで極端な性格だから、本当に伝えたいことを何も発信せずに死んでいくのだけは絶対に嫌なんですよ。

生で魅せられる強さを持つスケーターが本物

当時19歳。インタースタイルという全国から多くの人が集めるイベントで優勝してスターへと成長していった

ーYouTubeもそうですが、 今は個人がメディアになれるSNS全盛の時代です。そこについてはどう思いますか?

便利なメディアだしツールだとは思っていますけど、そこまで依存はしていないですね。それが全てではないと思いますよ。今の若い子たちはすげえ頑張って、Instagramでどうにかなろうと本気の映像をあげている人が多いけど、それだけじゃどうにもならないと思うんですよね。

コレは毒を吐いているとかじゃなく本当のことで、映像とかそういうのじゃ伝わらないんですよ。映像なんて、言っちゃえばいくらでも撮り直せるし、いくらでもカッコよく編集できちゃうし、いくらでもカッコよく自分を創りあげられちゃうものなんですよ。

だから俺は映像で見たすごいヤツってそこまで影響を受けないし、スゴいなとも思わないんです。

でも本当にヤバいヤツって、実際に見た時に超食らうんですよね。例えばスケボーだったらカルチャーの方に走って目立ってるヤツもいるけど、それより雄斗(堀米)がその辺でフラットやってる方が何百倍もヤバイって言うか。俺は生で魅せられる強さを持ってるスケーターが本物だと思うし、本当のトップはそれだけで魅せられるんですよね。極端な話フラットのオーリーだけでも違いを見せられるヤツはいますからね。

ーということはその逆もまた然りですよね。

もちろん。SNSで見たすごい上手い若手がいて、実際にSNS上で連絡を取り合って一緒に滑ったこともありましたけど、やっぱり大したことないなと言うか。ああ、やっぱり映像だといいところ使ってるんだなって思っちゃうんですよね。だから俺はあまりSNSやビデオなどのライダーの滑りは信用してないんです。

もちろん宣伝としてはいいツールだけど、それでどうにかしようとは思っていないというか。そういうところって、今の若い子はあまり分かってないんじゃないかな。

それに生で観た感覚っていうのは一生忘れないんですよね。だから感覚的には10%くらいで良いんじゃないかな。そんなにのめり込むなよって。所詮作られた世界だし“映え”の世界でしかないんですよ。

ー結局はどう活用するかが大事ですよね。

そう、自分はそこからリアルに繋げていきたいんですよ。例えば、YouTubeでこんなヤバいヤツがいますってフックアップしたとするじゃないですか。そうして後に注目されたら、今度はイベントとかに呼んでもらうことが大事だと思うんですよね。実際これだけヤバいんだっていうのを生で見せられるから。

だから要はそのための広告というかサンプルみたいな感じなんですよね。それで呼ばれたイベントを撮影してSNSに公開して宣伝することで、また次のリアルに繋がっていくと言うか。

だからSNSで評判を呼ぶのはゴールじゃなくてスタートであって、説明書くらいの感覚で見てくれるのがいいんじゃないかなと。最近は昔に比べてデモとかも減ったなと思いますけど、そういう機会を増やすのは絶対に必要だと思いますね。

違う層にアプローチできる

ーそれなら、今の時代のメディアの役割ってなんだと思いますか?

違う層にアプローチできるところですかね。自分は今までずっとスケートボードのメディアでやってきて、スケートボードだけを見てきましたけど、競技人口や業界規模がわかってくると、それだけでは正直限界を感じていた部分もあって。

だからスケートボード以外のメディアでスケートボードを広められるような何かをしたかったんです。そんな時に今回たまたま東急エージェンシーさんっていう大手の広告代理店さんからJASON RODMANでのインタビューの話をもらったのですごく嬉しかったし、こういうのを待ってたという感じなんですよね。

ーそう言ってもらえるとこっちも嬉しいです。

実際一般の人が思ってるよりスケーターは大変だし、違う世界のメディアがカッコよく出してくれるのは新たなファン層の獲得にも繋がりますからね。

あと今の子は親がスケボーを買い与えてパークに連れてって、何のジャマも入らないようなところで育ったって子が多いですけど、もともとスケートボードはそういうのじゃないんだよっていうのも伝えていきたいかな。俺は不良の遊びだとか言われていた時代のスケートボードで育った最後の世代だから、そういった歴史を繋いでいくのも重要な役目だと思っていて。

それこそ今の若い子達が知らないような先輩とかも忘れてほしくないし、上と下のパイプになれるって意味では、自分が最も適任だと思ってるんですよね。

ストリートカルチャーの時代を彩った岡田晋と松尾裕幸の両先輩と。彼の1日を追った企画2011年の「The Days Inn」より

コンテストのプレゼンテーターを務めた2015年の1枚。優勝したのはメキメキと頭角を現している若手の池田大暉

やらなきゃいけないことが多すぎる

『LOSS TIME WITH NIXON ~Kota Ikeda~』

VHSMAG SKATEBOARDING/YouTube

彼自身すごくファンが増えたと語る企画『LOSS TIME WITH NIXON』

ーそれならいっそのことYouTubeは良いツールになりますね。

そうなんです。今はスケートボードブームだし、30代40代で新たに始める人とか、学生時代にやってたからもう1回やってみようって言う人も多いと聞くので、自分より上の世代の人に向けた企画もやりたいですし、若い子たちもフックアップしてあげたい。本当にやらなきゃいけないことが多すぎます。

ただ、どの世代に出てもらうにしても、ライディング以外の部分も出してあげたいんですよね。以前自分は『LOSS TIME WITH NIXON』っていう企画に出たんですけど、「スケーターって結局滑ってるところしか出てこないからファンが増えない」っていうのをNIXONのボスが話してたんですね。

人が喋ってるところとか、声の感じとか口癖とか、そういうところも全てひっくるめてファンっていうものはできるんだって言ってたのを、そのまま形にしたのがあの企画で、公開されたら「今までもスゴいと思ってましたけど、さらに好きになりました!」とか、いろいろな声があってファンがすごく増えたんですよ。だからそういうのをやってあげたいなと思ってるんですよね。

自分が普段どういう会話をしているんだろうとか、あの人はどういうことをしゃべるんだろうとか、そういうのが面白いと思うんです。

すでに公開されてる雄斗(堀米)とのZOOM通話なんかはまさにそうで、自分じゃないと見せないような素顔もそのまま公開できたかなと思ってます。それにそういう部分ってスケーターじゃない人も見やすいし、新たな層を獲得するきっかけにもなると思うんですよね。

『堀米雄斗に電話してみた』

池田幸太 kohta ikeda/YouTube

堀米雄斗との自然な会話。世代を代表するライダー同士彼だからこそ引き出せる魅力に溢れている。

より面白い動きができるので期待してほしい

ーそういう意味では今回のインタビューをきっかけにJASON RODMANが動画制作を手伝ってくれることが決まったから、可能性はさらに広がるんじゃないですか?

間違いないですね。今までの話でいうと、実はほとんど撮影も編集も1人でやっていたから本当に大変だったんですよ。だからもともとのファンのスケーターに向けた動画とか、ちょっと一般向けに車を跳んでみたとか、そういう企画しかできなかったんですね。編集のクオリティも上げたかったんですけど、あれくらいが限界で。

でも、JASON RODMANさんが制作に入ってくれたことで、自分はより企画立案や出演者としての活動に専念できるので、より面白い動きができると思います。そこには期待してほしいですね。

今のところ高級車を借りて地方にツアーに行くなど、DIYでセクションなどを作ったり、さらにはトップクラスの格闘家とコラボしたりっていう企画をやるのは決まってます。これまでのキャリアを活かした自分ならではの動きはもちろん、媒体力を活かしてスケートボード業界の枠を超えた活動もしていきたいと思ってます。そしてこれを機にアルバイトもやめたいなと。協力してくれるスポンサーさんも募集してます!

ーいいですね。メディアが個人のYouTubeチャンネルの制作をサポートするのはスケートボード界では初めてだから、これからチャンネル登録者数も再生回数もさらに伸びていくでしょうね。ではいろいろ喋ってもらいましたが、最後は池田さんらしい30代の抱負で締めてもらいたいです。

船が欲しいっすね(笑)。ただ大マジでこんなこと言うのは普通バカすぎるって思いますよね!? でも俺はそういうのってすごく大切だと思うんですよね。

って言うのも、実際に10代20代の頃は「いい車に乗りたい!」って思ってて、それを実現させるために活動してきたら、今はそこそこの車は乗れるようになりました。それなら30代は「船でしょ!」っていうくらいのデカい気持ちで生きてるよっていうのを伝えたいんですよ。

今回の件も、「今はスケート業界以外の方が興味あるからそこでやりたいです」って言ったら、こうして東急エージェンシーさんからインタビューの話が本当に来たので、口にすることってスゴい大事だなど改めて思いましたね。

それに今までもインタビューは数多く受けてきましたけど、間違いなく今回が一番濃い内容になってるし、YouTubeチャンネルの件もすごく発展性のあることだと思ってます。だからそういう気概みたいなものは今までと全く変わらず貫き通していきたいですね。

このように彼は今の率直な気持ちとこれからの展望を丁寧に語ってくれた。

彼のYouTubeチャンネルはJASON RODMANの協力によって、さらに進化していくことは間違いない。

スケートボードの枠を超えた動きをすることも可能になる。

そこで4部にわたるインタビューのラストとなるパート4では、そのスケートボードの枠を超えた動きに直結する、プライベートな部分にフォーカスした内容をお届けしていこう。

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