胡散臭い奴らしかいない カルト、承認欲求、裏切り、殺害計画… 視聴者の価値観を揺さぶる 『タイガーキング』

胡散臭い人、あるいはヤの字がつく人ほど毛並の良い犬を飼いがちだが、アメリカでは猛獣の虎を飼うというのだからスケールが違うなあ!おい!と思わざるえない。

嘘か誠か、ここ日本でもアントニオ猪木がベランダでライオンを飼っていたなんて話がありますが、 自らの強さや権威の象徴のように猛獣を飼うのが向こうの限られた界隈ではステータスのようです。

いわゆる『虎界隈』とでも言いましょうか。

しかし悲しいかな、どんな界隈にも縄張り意識が働き、当てこすりバトルを繰り広げるもんです。

それは日本でもアメリカでも変わらない!
結果、目を疑う展開に発展する『虎界隈』を描いたNetflix発のドキュメンタリーが配信された。
それが『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』である。

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タイガーキングといえ元タイガーマスク佐山聡の復帰リングネームと相場が決まっていますが、何とキングはアメリカにも存在していたのだ。
その男こそ、ジョー・エキゾチックこと本名:ジョゼフ・マルドナド=パッセージだ。

虎のブリーダーとして名を馳せ、自らの動物園を経営する、この男。
ここまで聞くとムツゴロウさんチックな人をイメージするが、同性愛を公言し旦那は二人(虎を飼っているだけに本人はネコ)、派手な柄シャツにマレットヘア、全身には物騒なタトゥーとバチボコに空いたピアス、更にはマグナムリボルバーを常備。
本人作詞作曲の曲を歌い、自らのTVチャンネルを持つなど、ブリーダーに収まらないマルチすぎる活動を展開。

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その人懐こい笑顔とウィットに富んだジョークを放つスタイルで、エクストリームなムツゴロウさんぶりを発揮、虎界隈では通称『タイガーキング』としてブイブイ言わせていた。

まさに動物園の園長という言葉だけには収まらない、奇抜な俺ジナルスタイルを貫く異端児であった。

おかげさまで周囲も物騒だけど愉快なオジサンという扱いであったが、それを看過できない勢力が現れる。
動物愛護団体『ビッグキャットレスキュー』、そして代表の『虎界隈のマザーテレサ』ことキャロルである。
意識高い系である所のキャロルに、ジョーの動物虐待と虎の不法売買の疑惑を告発されてしまう。
煽り耐性のないジョーがコレを無視するのは無理な話であった。

不俱戴天の敵としてキャロルとの舌戦を開始するジョー。
果たして生き残るのはタイガーキング=ジョーか、虎界隈のマザー・テレサ=キャロルか。
各々の陣営を巻き込み、仁義なき当てこすりを繰り返す両者であったが、気づけば事態は予想もしない一触即発の展開に転がり込んでいくのであった。

同じ穴のムジナならぬ、同じ檻の虎といわんばかりに骨肉の争いを繰り広げる本シリーズ。
タイガーキングとキャロルとのバトルと周囲の人間の証言で構成されているのだが、全7話何処を切っても胡散臭い奴らしか出てこない。

最初は「愉快だなあ!」と笑ってみていられるが、カルト宗教の様相を呈する虎界隈、天井知らずの承認欲求、 裏切り、 殺害計画…とコチラの笑顔を凍らせていく。
まさか虎界隈の話から、スカーフェイスのトニー・モンタナのモデルまで出演するとは誰も夢にも思わないだろう。
話が進むにつれて、どう考えてもカタギじゃない人間が続々参戦していく展開に目を見張ってしまう。

ともすれば奇跡体験アンビリバボーのワンコーナーで取り上げられそうな話をボリュームたっぷりで見せてくれるわけだが、虎そっちのけで醜いエゴをぶつけ合う展開は必見だ。
果たして互いに振りかざす正義、どちらが正しいのか。
めぐるましく裏にも表にもなる互いの正義観が描かれていく。

例えば、ビジュアルおよびエキセントリックな言動と見た目なのも手伝ってヒールとしてジョーは満点だ。
だが、社会のアウトローである人々に動物園での働き口を与えていた面、旦那とのラブラブっぷりを見せつける面など、単純に「悪人」という一言では済ませられない魅力もある。
かと思いきや、八つ当たり気味で従業員をクビにする、最終的に従業員に殺人を依頼するなど、ドン引きする部分と同情すべき部分の両方を本シリーズで描いている。

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序盤、正義の味方のように登場する愛護団体のキャロルも勿論例外ではない。
確かに言っていることは立派であるが、ジョーの動物園にスパイを潜り込ませる、あるいは講演会場まで尾行させて行動パターンを掴むなど「あ、こいつもヤベエな」という違和感を抱かせてくれる。
そして話が進むにつれ彼女自身もドス黒い疑惑に満ちた過去のオーナーであったのが判明していくのだから油断がならない。

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単純な正義や悪で分けられない複雑な人間模様は、見ているコチラの価値観を揺さぶりにかかる。

何が恐ろしいって、本作は絵空事ではなく、この人たちは実在するという事実だ。
そして、恐らくメインの登場人物達全員が「俺/私は間違っていない」という揺るがない己の正義感に突き動かされている様にも戦慄させられる。

これは虎界隈に限らない。
映画、音楽、漫画…コンテンツそのものに限らず自分の価値を上げる為だけに紹介する人が一定数いるもんです(勿論、俺も例外じゃない)。
中には自分に批判的なもんは一切認めず、自分だけが気持ち良くなれる『小さい王国』を作っている様子をリアルだろうがSNSだろうが、折に触れて見かける機会が多々ある。

誰かにチヤホヤされるのは悪いことではないかもしれんが、調子をこいて自意識をありのままに暴走させた結果、「ヤベエなこいつ…」と、周りの人が黙って何も言わずに引いていき自滅するわけですが、本作においても起こっている事象は同じだ。

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…このように、そもそもは動物への愛から始まったのが、気が付いたら本来の目的や自分を見失い『小さい王国』が崩壊していく過程を本シリーズは克明に描く。
自らの王国を築こうとする者、王に従う者、王を利用する者、王を裏切る者…
ジョー以外の周りの登場人物を含め、何処か他人事には思えない余韻を本シリーズは残してくれる。
いずれにせよ、『タイガーキング』シリーズに登場する人物の中に、ふと自分のようなキャラが一人や二人見つかるかもしれない意味でも『怖い』ドキュメンタリー作品ですよ。

文・DIEsuke(@eroerorocknroll)/ステイサムの悩み相談bot狂犬映画ライター・映画タッグ:ビーパワーハードボイルド

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