スネークが見たら、どう思うのだろうか? 社畜こそ痺れる『ニューヨーク1997』

静まり返ったオフィスビル、シャッターが下りた地下街、うらぶれた商店街。そんな、自分以外に人っ子一人いない場所を歩く。しかもド深夜に。

ふと「ああ、なんか初期のジョン・カーペンター的な情景だなあ…」と感じてしまう。もっといえば『今の俺はスネーク・プリスケンだなあ…』と妄想する。こんな瞬間ってありませんか?

観た後に作品内で描かれた深夜の情景と自分のリアルが繋がってしまう映画ーーーそれが『ニューヨーク1997』だ!

1988年のアメリカ。気がつけば犯罪率400%という、どうかと思う数字を叩き出していた。この事態に政府はマンハッタン島を壁で囲い、犯罪者を放り込む盛大な放置プレイを国ぐるみで敢行。
河を超えて脱獄しようとする輩は即射殺!のスパルタな姿勢で対応する、一度入ったら二度と出てこれない巨大な刑務所と化していた。

それから9年が経った1997。
運が悪いことに大統領専用機が反政府ゲリラにハイジャックされてしまう。
更に輪をかけて運が悪いことにヤケクソになったゲリラはニューヨークへ、ジャスティス自爆突撃!
救出ポッドのおかげで命は助かった大統領であったが、ここは悪人しかいない無法地帯のニューヨークである。
もちろん無事なはずがない。
返す刀で派遣される救助部隊であったが、強制エンコ詰めをされた大統領の指を見せつけられ撤退を余儀なくされてしまうのであった。

こうなりゃグライダーでの単独潜入しか救出する方法はない。
この事態を打破するのに白羽の矢を立てられたのが、元軍人にして現在は絶賛札付きなワルのスネーク・プリスケンであった。
お国の事情など知ったこっちゃないスネークであったが、政府としてはそうも言ってられない。というのも大統領は世界の命運を左右するスピーチを控えていたのだ。
今までの罪を帳消しにする条件で渋々引き受けるスネーク。だが念には念をということで頸動脈に小型の爆弾を埋め込まれてしまう。
騙し討ちにもほどがある仕打ちに「おい!ふざけんなよ!」とキレるスネークを尻目にタイマーは無情にも作戦の開始を告げる。

タイムリミットは24時間。
生か死か…
こうして、無茶ぶりにもほどがあるスネークの孤独な救出作戦が幕を開けるのであった。

ホラーの名将として名を馳せるジョン・カーペンターが手掛けた本作。
主演のカート・ラッセルを筆頭に、リー・ヴァンクリーフ、ドナルド・プレザンス、ハリー・ディーン・スタントン、エイドリアン・バーボー、アーネスト・ボーグナイン、アイザック・ヘイズとゲキ渋な脇役が固めている。
映画ファンなら大喜び、一般の人なら誰!?となるキャスティングだ。
今から41年前に公開された作品なので、まあしょうがねえ!

だが本作でカート・ラッセルが演じるスネーク・プリスケンは、今見ても決して色褪せていない。
主人公でありながら、正義感や愛国心なんてもんは微塵も持ち合わせないアウトローっぷりを本作では披露!名字で呼ばれれば「スネークと呼べ」、名前で呼ばれれば「プリスケンと呼べ」と天邪鬼精神をフルに発揮!
もう「右に倣え!」と上から目線で言われたら、全力で左に倣う姿勢には目を見張るもんがある。思わず人事とかの面談で真似したくなるワンパクっぷりだ。

この時代を超えた反骨精神は、日々社畜として生きる人間こそ痺れてしまう。
長髪にヒゲ、ダメ押しみたいに片目にはアイパッチという100点満点なビジュアルを見ると「ハハア…さては向かうところ敵なしのタフガイなのか?」と思う方もいるかもしれんが、そうでもない。戦闘力も一般人よりちょっと強いくらい。
言ってしまえば、千切っては投げどころか、相手に投げられる機会が多い。
更には劇中、まあまあ落とし物やら敵に捕まったりなどのイモを引いてしまうのだが、じゃあ魅力がないのか?と言われれば否!完璧じゃないからこそ、キャラがキラリと光っているとでも言おうか。
決して24時間タフガイ営業ではない主人公像は、今見ても斬新だ。
例え逆境に陥ってもソレはソレで「いざという時にキメればいいじゃない!」と観る者に教えてくれる。

おかげさまで「良いようにコキ使われっぱなしじゃねーぞ!」とスネークがラストで見せるアウトローの矜持に痺れてしまうだろう。テーマ曲をバックに一人足を引きずりながら去っていく、正しい定時退勤っぷりを見せてくれる。
相手が例え権力だろうが何だろうが、上から目線の相手には媚びない。
誰かに賞賛されるヒーローではなく、あくまで己の流儀を貫くアウトローという姿勢こそが本作のスネークの大きな魅力だ。

他にもスネークの帰りを待つピアスがチャームポイントのホーク、愉快なタクシーの運ちゃんキャビー、胸ポケットにあるボールペンが気になるブレイン、誰よりも漢気を発揮するブレインの愛人マギー、いざとなれば部下を置いてけぼりで突撃するのが困っちゃう裸に将校服のデューク、ダチョウ俱楽部ばりに嫌がらせされた結果、マシンガンを乱射する大統領…などなど。
スネークに負けず劣らずビジュアルおよび個性バリバリなキャラが多い。

だが、こうしたジャンルでよく描かれるヒャッハー的なノリは本作にはない。
どことなく倦怠感のある世紀末が描かれている。
例えば、終電を逃がして4次会の沈黙しか流れないグダグダを通り越した飲みの場。あるいは、ひたすら始発を待つ深夜のマクドナルド。そんな深夜特有のダウナーな雰囲気が本作にはある。続編の『エスケープフロムLA』は、ステータスをエンタメに振っているおかげか1次会のノリに近い。
いずれにせよ良い意味での『A面とB面感』があるわけだが、『ニューヨーク1997』は、よりディストピアな夜が持つ無機質な冷たさや不穏さを感じさせてくれる。
ジャンルはSFアクションではあるが、どこか現実に地続きな雰囲気があるのが特徴だ。かれこれ41年前に公開された作品ではあるが、決して古い映画の一言で済ませられない魅力がある。

すっかり1997年を超えて2022年になった現在。
自分を通すより、大層な能書きを語り、大多数の賛同を得る意見ほど重宝されるのが今の世の中である。俺を含め、異を唱えるより誰かのいいなりになるのがラクと傾きがちだ。
そんな世の中を果たしてスネークが見たら、どう思うのだろうか…と、つい思いを馳せてしまう。

ともあれ政治的な正しさというものが年々分からなくなっているが、そんな時ほど深夜1時から見返したくなる作品だ。
現在、本作を含めた『ジョン・カーペンター・レトロスペクティブ2022』が全国の劇場で催されているので、スネークばりに小型爆弾を埋め込まれて切羽詰まってない人は是非駆けつけて欲しい。

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文・DIEsuke(@eroerorocknroll)/ステイサムの悩み相談bot狂犬映画ライター・映画タッグ:ビーパワーハードボイルド

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