チャングム×クムジャさん÷コマンドー 『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』 イ・ヨンエにメイトリクス精神を見た

母親を舐めんなよ!

そんな思いを日々抱いている全国の奥さん、お待たせしました!
旦那や近所の住民、ママ友のコミュニティにブチキレてるお母さん必見の映画が遂に公開された!
それが韓国映画『ブリング・ミー・ホーム 尋ね人』だ!

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ソウルで看護師として働くジュヨンと、元教師の夫ミョングク。
ごく普通の夫婦であったが、6年前に一人息子ユンスが失踪。
今でも息子の無事を信じ、全国津々浦々回りながら行方を探し続けていた。
だが、ユンスの手掛かりは全く掴めない。
無力感にさらされながらも互いに支えあう気丈な夫婦であったが、突如ダメ押しのような悲劇が発生。
不幸の役満状態にジュヨンの心は完全に折れかかってしまうのだった。

そんな彼女の元に、海辺のド田舎で働くユンスらしき子供の目撃情報が飛び込んでくる。
一縷の望みをかけてド田舎に向かうジュヨンだったが、胡散臭さ150%の家族と地元の警察署長が行く手を阻むのだった。

ウェルカム精神ゼロの家族と署長の様子に疑念を抱くジュヨン。
果たして子供はユンスなのか?
矢も楯もたまらず、ジュヨンは殴り込みの決意を固める。

味方はゼロだが武器もゼロ!
あるのは母としての愛のみ!

敵は極悪万引き家族と悪徳警官!
今、息子を奪還すべくジュヨンの孤独な戦いが幕を開けるのであった。

フィクションの世界において、親の愛が倫理をガン無視なほど面白いもんですが、本作も多分に漏れない。
子を失った母の喪失感を描きつつ、周囲の無理解や無関心を撃つ社会派サスペンスな訳だが、やはり見所はアクセル全開の反逆モードへトランスフォームする、ジュヨン役のイ・ヨンエだろう。

どうかと思うほどに理不尽な目にブッ飛ばされ続けながらも、ヤケクソな母性で子供の奪還に挑んでいく。
嫌がらせみたいな激辛展開、アバウトすぎる警察は韓国映画の名産品だが、本作でも健在。

ともすれば裏社会の人間ないし元特殊部隊、あるいはマ・ドンソクを投入したくなるところだが、本作はあくまで一般人のお母さんによる小細工なしのタイマンを描く。

おいおい、普通のお母さんかよ…と嘆息する人もいるかもしれんが、侮ってはいけません!
むしろ一般人の彼女が翻弄されるタメがあるからこそ、いよいよヤケクソになり、「許せぬ!奴らはタダでは済まさぬ!」といわんばかりにメンチを切る姿に痺れてしまうだろう。

宮廷でイビられまくったチャングム、復讐に関しては確かな実績があるクムジャさんを演じたイ・ヨンエだからこそ出来たコンボ演技だ。

このように閉鎖的な田舎スリラーからコマンドー展開に移ってからは、ゲス野郎どもを相手に『母性の向こう側』を見せてくれる。
思えばクムジャさんでも赤いアイシャドーが印象的だったが、本作では目にドス黒いクマが出来てからが本番。

考えすぎかもしれんが、本作のイ・ヨンエに、殴り込み直前にフェイスペイントを施すコマンドーのメイトリクス精神を見た!勝手に!

戦闘力は並、だけどコマンドー精神は百点!の彼女がいかに絶望的な状況を打破するか?という展開に思わず手に汗握ってしまう。
実生活でも二児の母親になり芸能活動を休止していたイ・ヨンエだが、復帰作にしては随分アグレッシブな作品選びだ。

もちろん対峙する悪党共も負けてはいない。
拉致疑惑がかかる釣り堀家族の「児童虐待上等!」な胸クソの悪さは、まさに極悪万引き家族。
コミュニティ特有のヨソモノを排除する姿勢は「いそうだなあ、こういう奴ら…」と背筋が寒くなってしまうだろう。

そんな彼らと一蓮托生な警察署長役のユ・ジェミョンも悪役演技で一人気を吐く。
右から見ても左から見ても清々しいほどのゲスっぷりを披露し、最終的には13日の金曜日のジェイソンばりに大暴れ!
むこうがヤケクソなら、こっちもヤケクソじゃい!といわんばかりに、なりふり構わずランニング姿&パンイチでジュヨンに襲い掛かる。
「やはり悪役はパンイチ姿で見苦しいほど輝くなあ…」と感心してしまった。
彼が最終的に辿る結末を含め、今年観た映画でもベスト級のヒールぶりだ。

マ・ドンソクやシュワルツェネッガーじゃなくても、お母さんでコマンドーは出来る!を証明したと言えなくもない本作。

まさにチャングムとクムジャさんをコマンドーで割った様相を呈している。
いずれにせよ全国のお母さん必見な『ママさんコマンドー映画』ですよ。

文・DIEsuke(@eroerorocknroll)/ステイサムの悩み相談bot狂犬映画ライター・映画タッグ:ビーパワーハードボイルド

本作にて14年振りのスクリーン復帰となるイ・ヨンエ。
『JSA』や『親切なクムジャさん』では、どちらかというと普段日常ではなかなか出会わない、まず接する機会のないキャラクターを演じ、しかもそこにその演技力で臨場感をも持たせていた印象が強く残っていました。
しかし今回は、背景に特殊な事情は抱えているが、シンプルに本当に身近に居得る「子を想う母親」という設定にも関わらず、彼女が演じるとどこか強い説得力を纏った人物としてスクリーンにくぎ付けに。
そもそもどことなく悲しげな儚げな雰囲気を放っているように見える上に、今回は更にその上に“目”から放たれる怒りや哀しみ、嘆息や絶望の幾つもの感情に圧倒されました。
物語の展開も秀逸で、元々重厚な作りの中に程よくエンタメ性が盛り込まれ、一見堅苦しいテーマでありなからも鑑賞中に中だるみすることなく、とはいえちょっと気になる部分も残り、「あれはどういうことだったんだろう…もう一回観てみようか。」とさえ思わされました(少なくとも自分は)。
丁度本作の公開週が、比較的ミニシアターが全般的に座席の約半分の間引きから、全席開放にシフトしたタイミングでもありました。
これを書いている時点でそこから数日しか経っておらず、影響についてはまだなんとも判断し難い状況ではありますが、毎週のように色んなジャンルの新作が公開され、「また満席で観られなかったな…来週は必ず!」「あれも観なきゃ…あ、これも始まる!」と、いい意味で映画に振り回される日常が戻ってくることを祈念しながら、今日も劇場で皆様をお迎えし、今後の新作や、皆様に楽しんでいただけるよう劇場施策についてもあれやこれやと考え中です。

新宿武蔵野館 編成担当  西島 新

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