心理と思考を狂わせる 鬼才デヴィッド・フィンチャーの監督術

鬼才と呼ばれるデヴィッド・フィンチャーの監督スタイルを7つの観点から解説する動画を、映像制作ソフトウェアを提供する<StudioBinder>が公開している。フィンチャー監督は、これらを緻密に組み合わせることで、観客の心理や思考に訴えかける作品を生んできたのだろう。

デヴィッド・フィンチャーは、まず観る者を騙す<ストーリー>を得意とし、エドワード・ノートンがブラット・ピットと共演した『ファイト・クラブ』(1999年)では、主人公自身も完全に騙されるほどの物語が展開した。本作では撮影場所、衣装、小道具を含む<美術>へのこだわりも見られる。エリート会社員の主人公が憧れるモデルハウスのような部屋と、彼が出会う謎の男タイラーの住む荒廃した家は、まさに対極的だ。

Movieclips/YouTube

<色彩>を抑えた暗い映像も、フィンチャー作品の特徴のひとつだ。緑、青、赤、そしてお気に入りの黄色など、単色で統一した画面作りも多いが、色の対比を使って意味を持たせることもある。『ゴーン・ガール』(2014年)では、妻が失踪したニック(ベン・アフレック)が記者会見を行うが、背景の壁や隣に立つ妻の両親の服がすべて茶系で統一されていることで、青いシャツを着たニックに自然と目が行く。妻殺害を疑われる第一容疑者として、彼が孤立していることが際立つのだ。

20th Century Fox/YouTube

<映画撮影術>については、頻繁にカメラが動くカメラワークによって、登場人物の精神状態を巧みに表現する場面も見られる。『パニック・ルーム』(2002年)で、主人公のメグ(ジョディ・フォスター)が新居に設けられていた緊急避難用の“パニック・ルーム”と呼ばれる狭い部屋に入るシーンでは、カメラが彼女を回り込みながら表情にズームインしていくことで恐怖を感じていることを強調し、一方、物語の終盤で命の危険から逃れたメグと娘が公園のベンチで過ごすシーンでは、カメラ自体を彼女たちに近づけながらズームアウトすることで画面に開放感を持たせ、恐怖から解き放たれた心情を表している。

そして<編集>には登場人物が何かを発見すれば、観客も同時に発見するという視点への配慮が見られる。アメリカで実際に起きた連続殺人事件を描いた『ゾディアック』(2006年)の容疑者が取り調べを受けるシーンでは、捜査官が捜査資料に出てきたブーツや腕時計に目を留めるカットがあり、彼らの視点をとおして、観る者にも推理をさせるような編集になっているのだ。

また、フィンチャー監督は<音響>と映像を融合させることで、登場人物の経験を描き出してきた。『パニック・ルーム』において、メグが家に侵入した犯人たちの隙をついて部屋の外に携帯電話を取りに行く緊張感漂うシーンで流れるのは、ディレイがかかったアブストラクトな音であり、『ファイト・クラブ』で印象に残る怪しい女性、マーラ(ヘレナ・ボナム・カーター)の登場シーンで響くのは、耳に残るライターの着火音。いずれも登場人物の経験を効果的に表現するような音響が用いられている。

Sony Pictures Entertainment/YouTube

さらに<音楽>は、シーンに合わせて皮肉っぽく使用されることもあれば、作品のテーマに合った楽曲が使用されることもある。Facebook誕生の裏側を描く『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)は後者にあたる。伝統的なレガッタのレースシーンで使用されたのは、1874年にエドヴァルド・グリーグが作曲した《ペール・ギュント》第1組曲「山の魔王の宮殿にて」をナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアティカス・ロスがアレンジしたもの。IT業界を描く本作では、クラシックをエレクトロニックな音色で聴かせる音楽を使用することで、古典的なものと現代的なものの衝突が表現されている。

StudioBinder/YouTube

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