白人警官に殺害されたジョージ・フロイドへ ダベイビー、怒りのパフォーマンス

ブラック・エンターテインメント・テレビジョン(BET)によって2001年に創設され、エンターテインメント業界で活躍するアフリカ系アメリカ人や、それ以外のマイノリティの人々を対象に贈られるアメリカの文化賞<BETアワード>。

毎年、その模様が生放送される<BETアワード>授賞式だが、今年は例年以上に意義深いものとなった。言うまでもなく、白人警官によるジョージ・フロイド氏の殺害事件をきっかけとする、黒人差別に対する大規模な抗議運動<Black Lives Matter>の影響が大きい。また、新型コロナウイルス騒動の収束への見通しが定かでなはいアメリカの状況を考慮し、大きな会場に多数の観客を招いた通常の授賞式ではなく、バーチャルスタジオを中心にした内容だったことも特筆すべきだ。

そのなかでも話題となったのが、ダベイビーのヒット曲「Rockstar」の特別バージョンだった。司会のアマンダ・シールズがダベイビーの名前をアナウンスすると、画面に映し出されたのは警官の膝で頭部をアスファルトに押さえつけられたダベイビーのアップ。この衝撃的な冒頭が、フロイド氏の死の瞬間を再現したものであることは誰の目にも明らかだ。これには視聴者も息を飲んだことだろう。

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続けて「I AM GEORGE FLOYD」「I AM BREONNA TAYLOR」など、不当に殺害された黒人犠牲者たちの名前をプリントしたTシャツを着たり、「Black Lives Matter」「DEFUND THE POLICE(警察を再編せよ)」といったメッセージボードを掲げた人々の姿が映し出される。破壊されたパトカー、必死の抗議を行う人々の姿、そして後半ではデモの前線で対立する警官の1人が防具を脱ぎ、抗議する人々に加わる。最後は「MORE LOVE」というボードを携えた1人の黒人少女がこちらに歩み寄るカットで締めくくられている。

実はダベイビーには地元の大型ドラッグストアで襲われ、正当防衛とはいえ19歳の青年を射殺してしまったという悲劇的な過去がある。そんな彼が「Rockstar」で歌うのは、生き延びるために銃を携帯していなければならない現実と、生々しい自身の体験だ。“Rockstar”とはジャンルでいうところのロックやロックスターという意味だけでなく、「派手でかっこいいやつ」というニュアンスも含んでいる。

“腰から下げてるこいつはギターじゃないんだぜ チャカさ”というフレーズからは、ユーモアと皮肉、そしてやりきれなさが覗く。銃を携帯して、若者を殺さなければならない“Rockstar”の悲劇だ。さらに、“オイラを肌身離さず持ってな そのタイミングが来たら容赦なくぶっ放せ そいつの頭に突きつけたら 容赦なくやれ もしオイラじゃ役不足ってんなら ライフルを手に入れな”と、腰に下げた拳銃が空想上の親友のように語りかけてくる様子をラップし、ユーモアとともにぞっとさせる。

ダベイビーは、2歳にも満たない我が子の目の前で19歳の若者を射殺した体験を「トラウマだ」と語る。そして「オレみたいに、本当に警官にひどい目に遭わされて死にそうな思いをしたことのあるやつはほんの一握り」「アーティストどもも、パブリシティのためにメッセージを発したりしてるけど、オレからすれば最初から警官は敵だし、これがオレの日常だ。そういうことに迎合する気はない」といった趣旨の発言もしていた。

ダベイビーは自身の体験の過酷さから達観し、これまでも一歩引いたスタンスを崩そうとしなかった。しかし、そんなダベイビーでも、この日は強力なメッセージを込めた特別なミュージック・ビデオを世に放ったのである。

今年の上半期は新型コロナ、そして<Black Lives Matter>運動が世界を席巻した。それらは分かち難く影響しあっており、世の中の様々な問題を浮き彫りにしたと言えるだろう。それらによって損なわれ、傷つけられ、命を落とした者は数知れない。しかし、そんな困難なときだからこそ、このダベイビーのMVのように、強力で無視できない作品が生まれたりもする。そしてそこからは「この社会を変えたい」という本気の意思が伝わってくる。

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