ピクサーのクリエイティブを邪魔していた“あるモノ”

世界一のアニメーション制作会社であるピクサー現社長を務めるエド・キャットムル。彼が2年の歳月をかけ、その経営哲学をまとめた『ピクサー流 創造するちから』(ダイヤモンド社)は、ビジネス書としてもドキュメンタリー作品としても、各方面から非常に高い評価を得ている。同書より、「会議環境」の重要さを考えさせられるエピソードについてご紹介したい。

サンフランシスコのバークレーにあるピクサーの本社オフィスは、隅から隅まで、あらゆるディティールをスティーブ・ジョブズが取り仕切り、4年間の構想と建設を経て2000年秋に完成させたものだ。建物は「共同体」という思想で統一され、社員同士が自然に顔を合わせて会話しやすく、コラボレーション能力が高められるよう人の動線が考え抜かれている。

継続した創造的組織づくりにおけるコミュニケーションを非常に重要視し、それらを促し活発化させる職場環境であることを大切にするピクサーにも、かつて、その信条と正反対な作用をもたらす“禍々しきテーブル”が存在していた。

大会議室に13年間にわたって置かれていたという、長細く、品の良いテーブル。そこに30人が2列になって向き合うわけだが、横に広がりすぎて話がしにくく、両端の席に座った人などは話についていくこともままならない。必然的に、皆の意見を聞き漏らしてはならない監督とプロデューサー、クリエイティブのリーダーたちの席が中央となり、彼らが常に固まって座れるよう、誰かが座席表を作るようになった。

いつしかそれは、中央に近い席にいる人ほど重要で中心的な存在であることをほのめかし、席が端の人ほど会話の中心から離れているために参加することがおこがましく感じるようになっていた。一方、リーダーたちは自分らの都合のいいように作られた中央の席に“安住”し、離れた席の人が感じていた疎外感に気づけぬまま、すっかり全員でミーティングをやっているつもりになっていたのだ。

ピクサー社長のエド・キャットムルがその過ちを発見した数日後、大会議室に設置された真新しいテーブルが、大勢の出席者同士が一度に話し合える一体感のある四角い場を形成した。だが、根本的要因を排除するという解決策が講じられてなお、習慣化されていた座席札が問題の余韻として残り、わざわざ廃止するまで続いたというから興味深い。

ピクサーの基本的な原則であるはずの「立場に制限されない自由なコミュニケーション」を意図せずして阻害していたテーブルと、それに付随する座席表の習慣。会議室の力学が議論の質を左右することを深く理解していたはずの自分たちが、基本的な信条と反対の行動を知らぬ間にとっていたことを、キャットムルは「まさしく灯台下暗しだった」と振り返った。

Pixar/YouTube

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