何故『パラサイト 半地下の家族』は、米アカデミー賞を取れたのか?

仏カンヌ国際映画際パルムドールに続き、米アカデミー賞では作品賞など4冠を獲得した映画『パラサイト 半地下の家族』。2大映画イベントにおいてダブル受賞を達成した作品は64年ぶりであり、非英語圏の映画としては初となる快挙だった。

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この偉業を成し遂げた韓国人映画監督のポン・ジュノについて、歴代作品についての分析や考察、生い立ち、DNA、韓国のエンタメビジネスといったあらゆる視点から研究したのが『ポン・ジュノ 韓国映画の怪物』(下川 正晴/毎日新聞出版)である。

なぜ非英語映画である『パラサイト 半地下の家族』が米アカデミー賞を取れたのか? このテーマについては、国内外問わずさまざまなメディアや識者による分析が行われている。その要因として日本で論ぜられることが多いのは、アカデミー会員の多様化や作品そのものの質などだが、元毎日新聞論説委員・ソウル支局長の下川氏は、自著『ポン・ジュノ 韓国映画の怪物』で“財閥系企業「CJ」”の存在について詳述している。

サムスン財閥系企業であるCJグループのうち、放送、映画、ゲーム、音楽といった韓流文化のコンテンツを網羅する企業が「CJエンタメ」だ。韓国映画への投資と配給を通じて、韓流の世界覇権を目指す同社を、21世紀前半に登場した“東アジアの新興文化帝国”と下川氏は表現する。その中心人物となっているイ・ミギョン(CJ副会長)は、『パラサイト』のチーフプロデューサーであり、アカデミー賞作品賞の授賞式で挨拶していた小柄な老婦人その人である。

『殺人の追憶』以来、ポン・ジュノ監督の作品に投資してきたCJエンタメだが、『パラサイト』のオスカー受賞のための宣伝キャンペーンには100億ウォン(約9億2800万円)を投じたと言われている。ちなみに、ポン・ジュノのハリウッド進出作『スノーピアサー』への投資額にいたっては韓国映画史上最大となる400億ウォン(約36億円)にものぼるという。

果たして、世界の映画界に衝撃を与えた『パラサイト』の快挙に、韓国メディアはイ・ミギョンの業績を絶賛し、海外メディアもこぞって報道した。しかし、下川氏は彼女に対する2006年のあるインタビューでの発言を取り上げ、「アジア市場だけでも、“韓国エンターテインメントの植民地”にしてみたい」という言葉を「看過できない“妄言”」と評する。

さて2020年春、Netflixで配信されたドラマ『愛の不時着』が一大ブームを起こした。これはかつての『冬のソナタ』ブームとは異なり、20代からシニア層までの老若男女、それまで韓流ドラマに関心を持っていなかった層をも巻き込んでの爆発的ヒットだ。注目すべきは、このドラマを製作した「tvN」こそ、CJ傘下のケーブルテレビ局であるということ。

米国トップチャートを制したK-POP、2019年の輸出額が約69億ドルに達したゲーム産業をはじめ、世界有数のコンテンツ大国として躍進を続ける韓国。イ・ミギョンが常々掲げてきた「ソフトパワーこそ韓国の未来である」という信念は着々と形になっている。さすれば、件の“植民地”発言も、あながち妄言と斬り捨てられるものではないのかもしれない。

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