仮想通貨で世界をひっくり返す ビットコインに狂った“怪人”たち

『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』、そして映画『ソーシャル・ネットワーク』に登場するキャメロンとタイラーのウィンクルボス兄弟。身長195センチでボート部のエース、ハーバード大卒、大金持ちの家系、おまけにイケメンという超ハイスペックな一卵性双生児は、世間の妬みの的になるのも仕方がないというより、もはやチートとも言える存在だ。

そんな2人が今回紹介する『世紀の大博打 仮想通貨に賭けた怪人たち』(文藝春秋/著:ベン・メズリック)の主人公だ。2人がマーク・ザッカーバーグに出し抜かれて巧妙にアイデアを奪われ、マヌケな悪役に描かれたせいで世間ではすっかり負け犬として認知される。そんな状況から物語は始まる。

馬鹿でマッチョなリア充が、日陰者の真面目なオタクにやり返される。そんな逆襲劇が大好きな世間は兄弟を笑いものにしたわけだが、IT業界全体からも嫌われ者となったのは、彼らがザッカーバーグ相手に訴訟を起こし、6500万ドルという大金を“せしめた”からだろう。兄弟からすれば、それは当然の訴訟であり権利の主張だった。「そもそも自分たちもfacebookを発案したのだから」というのが彼らの根拠であり、ザッカーバーグも認めたことから恐らくそれは真実なのだろう。

そんな中、2人は弁護士の猛反対を押し切り、勝訴の対価を現金ではなく“株券”で受け取ることにする。「facebookの株を持つ権利があったはずだから」という理由なのだが、ここに彼らの生真面目さが現れていることを著者は冷静に示している。その後、最後まで兄弟の“誠実さ”が物語の鍵となっていくのだが、それはどういったものなのか。そもそも彼らは、ただの”ジョックス”と呼ばれる「無神経な体育会系のリア充」ではなかったか?

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本著では、ドイツにルーツを持つウィンクルボス家の歴史を丁寧に振り返るとともに、兄弟と両親に訪れた思いがけない悲劇の場面では、読む者は驚かされると同時にシンパシーを覚えることだろう。いくら恵まれているように見えても、やはり影や闇を背負わない者はいない。やがて名誉を犠牲に手に入れた大金を、兄弟は“ビットコイン”という全く新しいテクノロジーに投資するわけだが、その背景には彼らの決死の決断があった。

金があっても名誉を捨てることは、誇り高いウィンクルボスの家系には許されていない。崖っぷちの中、妙な出会いから仮想通貨の可能性に気付き始めた彼らは、世紀の大博打を決意する。その胸中には、「世界を変えてみせる」「仮想通貨でより良い世界を作ってみせる」という大きな野望と使命感があった。

そんな彼らが出会う“怪人”たちもまた、ビットコインの可能性に魅せられ、人生を捧げようと決めた人々である。ブルックリンの暗い地下室でコンピューターと向き合うチャーリー・シュレムは小柄で、正統派ユダヤ教の家系、ナード、そしてこれから世界を変えるかもしれない天才だ。ウィンクルボス兄弟は、弱冠25歳のこの青年に文字通り全てを賭けることにしたため、ある意味でチャーリーもこの物語のもう1人の主人公と言える。

彼の顛末は最後まで予測不能で息を飲む展開を見せる(もちろんニュースなどで彼のことを知らなければの話だが)。“ビットコインの救世主”にしてキーマン、チャーリーの師であるロジャー・バーも仮想通貨で世界をひっくり返そうと夢見る1人だ。無政府主義者として過激な思想を持つ“リバタリアン(自由主義者)”で、キャメロンとタイラー兄弟、チャーリーと妙な化学反応を起こしたロジャーも、最後はまた彼の物語を紡いでゆく。

彼らはそれぞれ極端な才能ゆえに、はぐれもので歪な存在だ。誰1人似た者はおらず、それぞれのドラマを生きている。だが共通しているのは、仮想通貨に人生を賭け、その可能性を信じているという点だ。“ゴールドのバージョン2.0”とも言われるビットコインなら、平等で新しい世界を作れると彼らは本気で信じている。本作の最後、同じ理想を抱いたそれぞれの顛末はまるでオムニバス映画のようだ。本著はこれから映画化される予定もあるそうだが、おそらく余計な演出と脚色は要らないだろうというくらいにはドラマチックな内容に仕上がっている。

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