“マヌケな嫌われ者” 『ソーシャル・ネットワーク』悪役兄弟のその後

映画『ソーシャル・ネットワーク』の原作として知られる『facebook 世界最大のSNSでビル・ゲイツに迫る男』の著者ベン・メズリック。彼の待望の新著『世紀の大博打 仮想通貨に賭けた怪人たち』(文藝春秋)では、『ソーシャル・ネットワーク』のストーリーとはかなり違った視点を大胆なまでに与えることに成功している。

「Facebook」の最終章から始まる今作の主人公は、『ソーシャル・ネットワーク』でザッカーバーグにコテンパンにされたあの“イケメンでボンボンでマッチョな体育会系のリア充野郎”こと、双子のウィンクルボス兄弟。

メズリック氏は、映画『ソーシャル・ネットワーク』によってウィンクルボス兄弟が“間抜けな嫌われもの”として描かれてしまったことに“少なからず責任を感じている”と自ら認めている。それにしても、本著で描かれる兄弟の姿は、彼らをあの映画だけでしか知らない者にとってはあまりに意外だ。もちろん、ITの動向や経済に明るければ、キャメロンとタイラー・ウィンクルボスがビットコインの世界では現在、最重要人物になっており、仮想通貨の立役者であることは既知だろう。

だが、そもそもビットコインにも仮想通貨にも馴染みのない者にこそ、本著は新鮮な驚きをもって迎えられるはずだ。“仮想通貨”“暗号”“ブロックチェーン”の定義について。さらには“そもそもお金って何?”という根源的な問いとその答えに触れることができる。

そして、今もなお正体不明のハッカー“サトシ・ナカモト”、闇マーケット“シルクロード”と売人たち、東京にあるらしい仮想通貨売買所の不気味な管理人、ややこしい出自の若き天才、過激思想のリバタニアン(自由主義者)など、登場する人物はみな漫画か神話のようだ。EDMが鳴り響き、目を見張る美女ばかりが踊るクラブ。誰もが知る映画スターばかりのビーチ・パーティー。魅力的だが危険な匂いが漂う夜の世界。ビットコイン躍進のきっかけとなった地中海の島、キプロスで起きた事件の描写はゾッとするリアルさだ。とにかくエピソードが多く、キャラが濃すぎるくらいに濃いのだが、そこは著者のウィットとリズムの良い文体、そして優れた訳で一気に読ませてくれる内容に仕上がっている。

ちなみに当然とでもいうべきか、ウィンクルボス兄弟本人も協力する中で映画化が現在進行中とのこと。もちろんその映画にも期待大だが、話題を呼ぶであろうその公開前に、映画化が心配になる程に濃くエンターテイメント感が満載なこの原作を読んでおくことをお勧めしたい。そうすれば劇場で観るときにまた何倍も作品を楽しめるはずだ。

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