女性から男性に性転換した初のプロボクサー 世界王者やオリンピックより「本当の自分として生きる」

「本当の自分として生きられないとしたら?」
「自分ではない他の誰かとして生きろと言われ続けたら?」

女性から男性に性転換したボクサー、パトリシオ・マニュエルが自らの経験を語り、その問いに答える。数え切れないヘイトや残酷な経験を乗り越えてきたパトリシオだからこそ伝えられる力強いメッセージに耳を傾けてみよう。

Everlast/YouTube

「アイデンティティとは、あなたが誰であるのかということと同時に、世の中があなたが何者かをとらえることだ。幼い頃から、自分は男の子だと思っていた。だけど俺みたいな存在は、物心つく頃にはすでにまわりから自分は女の子だと教え込まれ違和感を感じるようになる。だから俺は沈黙することを覚え、感情を閉じ込めるようになった。けれど次第にそのことによる副作用で心身のバランスを崩し、生きることすら辛くなっていった。ボクシングに出会って、ようやく自分自身を取り戻すことができた。自分の能力を誇りに思うようになれたし、内面を掘り下げて自分がどうなりたいのか、そしてそのためにはどうしたらいいのかを考えるようになった。社会が決めた基準から外れてしまうと、社会から求められるアイデンティティと自分自身との間で葛藤が起こる。本当の自分でいるためには、自ら認められる努力をしなけらばならないんだ」

16歳でボクシングに出会ったパトリシオは、女子アマチュアボクシング選手権で何度も優勝し、2012年にはロンドンオリンピック選考大会への出場資格を得るなど、将来を期待される存在に成長していた。しかし、怪我に見舞われ残念ながらそのチャンスを逃してしまう。だがこのことがきっかけとなり、性別適合手術を受ける決断をしたそうだ。そして2018年12月、33歳のパトリシオはトランスした男性ボクサーとしてプロデビューを果たす。これがアメリカ国内で行われたプロボクシングの試合において、トランスジェンダーが出場した初の試合となり、初勝利を飾った。

「ボクシングで出会った人たちからは、『女子ボクシングを続けていれば世界チャンピオンになれたのに』と言われたよ。でも俺は自分自身であり続けながらボクシングを愛することを選んだんだ。本当の自分を捨ててオリンピック出場や世界チャンピオンになれるチャンスを得ることに意味を見いだせなかった。本当の自分として生きることは苦しみを伴うけど、何より価値がある」

「トランスジェンダーの俺が男性選手を相手にまともに勝負できないだろうと思われていたけど、それは間違いだということを証明したかった。プロデビューだけでなく、勝利を手にできたことは本当に嬉しかった。自分の名前が呼ばれて、観客の大歓声に包まれる。アドレナリンが急上昇するのがわかった。自分の人生でこんなに最高の瞬間が訪れるなんて信じられなかったよ」

「自分自身でいること、本当の自分として生きることが勇気ある行動のように思われない世界であってほしい。誰もが自分として自分らしく生きればいいし、そうすることを恐れないでほしい。そして自分自身であるために障害なんてなくていい。人種も民族もバックグラウンドも関係ない。社会は狭い枠にいろんな人を収めようとするけど、そこに収まる人なんてほとんどいない。そんなところに収まることなく、戦おうとするすべての人を応援したい」

そして、最後のメッセージとしてこう結んでいる。
「俺は最初のトランスジェンダー・プロボクサーかもしれない。しかし、俺が最初で最後ではない」

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